1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07610049
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Research Institution | Aichi Prefectural University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
楢崎 洋子 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 助教授 (50254264)
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Keywords | 言葉の音響化 / 言葉の音 / 音楽語法 / 音の身ぶり |
Research Abstract |
戦後の日本の声楽作品を対象に言葉の音響化を分析した結果、戦前に比べて以下の諸特徴が得られた。戦前の日本の声楽作品にあっては、言葉を旋律化する手法が和声的旋律、あるいはペンタトニックをはじめとする民族的旋律であったのに対し、戦後にあっては、無調的旋律および響きのテクスチュアによって音響化されているという点、さらに、戦前は言葉の抑揚に沿って旋律化されていたのに対し、戦後は作曲者の器楽作品を特徴づけている音楽語法により、言葉が自由に音響化されているという点である。 たとえば三善晃(1933〜)作品では、自身の器楽作品における無調的な旋律的紡ぎ出しにより、さらにそれらが声部間で交わるテクスチュアの中に言葉が音響化され、西村朗(1953〜)作品では、声部と声部を音高とリズムにおいてずらす西村の器楽作品におけるヘテロフォニックなテクスチュアによって言葉が音響化される。一方、武満徹(1930〜1996)作品では全音階的旋律で言葉が旋律化されるが、その中の変位音は、武満の器楽作品における音色変化の発想のもとにとらえられる。一柳慧(1933〜)作品も言葉は全音階的旋律で旋律化されるが、そこには一柳の器楽作品におけるリズム、旋律パターンの疑似反復の手法が反映されている。これらの戦後の日本の声楽作品には、言葉自体の音と、作曲者の器楽作品における音楽語法との間に二重性を指摘しうる。言葉の音と音楽語法を取り込む上位の概念として「音の身ぶり」設定し、日本の現代音楽作品における音の身ぶりの特質を明らかにすることが今後の課題となる。
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