Research Abstract |
初年度(平成7年度)は,集団討論による創造的なアイディアの生成を促進する要因について,一連の実験を行った.その結果は,集団討論状況は,創造的なアイディアの生成を阻害する要因を,潜在的に多く含むことを示唆していた.従って,促進要因を明らかにすること以上に,阻害要因を究明し,それを取り除く手だてを考えることの方が,集団の創造性を高めるのには有効であると考えた. この方針のもとに,本年度は,(1)創造性の6因子のうち,独創性に焦点を絞り,(2)課題をパズル的なものから現実社会の問題にすることを軸に,実験パラダイムのさらなる精緻化を行い,(3)最も基本的な問題として,集団サイズの影響について検討を行った. 課題は,岡山大学で来春開業予定の学生食堂のメニューについて,価格的に問題がなく,魅力的で,今までにないものを,できるだけ数多く考え出すことであった.これを1人で行う条件,2人で行う条件,3人で行う条件,4人で行う条件の4水準設定した.いずれの条件でも,最初に1人だけで考えるセッションを行った.1人条件は,それで終了したが,2人条件,3人条件,4人条件は,その後,集団討論によるアイディア生成セッションを行った. 実験の結果,集団討論による独創的アイディアの量も質も,2人条件の方が,3人および4人の2条件よりも,有意に優れていた.また,集団討論過程のコミュニケーションの行われ方について分析し,4人条件では,討論の進捗とともに,2人と2人に分かれ,3人条件では,2人と1人に分かれる構造化の傾向が見られることを明らかにした.この構造化は,集団創造性を阻害する大きな要因であると考えられる.従来,集団討論による創造性の阻害は,社会的手抜き(social loafing)現象の影響として説明されてきた.しかし,本研究の結果は,それをコミュニケーションの構造化の観点から,再考する必要性を指摘する.この観点は,集団の創造性のみならず,生産性・効率性を検討するうえで,重要な示唆を含んでいる.来年度,さらに具体的検討を推進する予定である.
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