1997 Fiscal Year Annual Research Report
「中国帰国者」をめぐる地域社会の受容と排除に関する比較社会学的研究
Project/Area Number |
07610184
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Research Institution | KYOTO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
蘭 信三 京都大学, 留学生センター, 助教授 (30159503)
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Keywords | 中国帰国者 / マイノリティ / アイデンティティ / 受容と排除 / パーリア / オリエンタリズム |
Research Abstract |
従来、社会学者は中国帰国者を研究対象としてとりあげることを怠ってきた。それは、中国帰国者が社会学の伝統的な問題関心とそぐわないと認識されていたためである。だが中国帰国者をめぐる問題は、彼らと日本社会との相互作用によって生じた状況によって、日本社会の本質を照らし出すひとつの視点を提示する。脱植民地主義的視点からの植民地や戦争体験研究についての世界的な展開、日本におけるニューカマ-外国人を対象とするエスニック研究の盛況は、この研究が、魅力的な課題であることを再認識させている。 中国帰国者は、マイノリティの社会問題であるだけでなく、日本と中国への二重帰属性というエスニックス研究の最新の課題であり、さらに、日本帝国、満州帝国、中華人民共和国そして現在の日本社会を生きた個人の人生は、戦争と国家そして個人を考察する戦争論の格好の研究課題を提示している。たとえば、彼らの定義・自立を促進する施策や制度は、マイノリティや外国人に関する日本国の行政の視点が凝縮されており、中国帰国者の子どもたちの学校体験は中日学校文化の違いや彼らの揺れるアイデンティティだけでなく日本の学校社会を逆照射する。日本語学級は、ある面では帰国者や外国人子弟の日本語習得の助けとなるが、他面では障害児を普通学級から特殊学級に「排除し隔離」することと同じ構造をもつ。また帰国者の子弟が暴走族的下位集団を形成するのは、学校社会=日本社会からの逸脱であると同時に日本社会への「適応」でもあること。日本社会の中国帰国者への視点は彼らに投影される日本人のオリエンタリズムでもあること。さらに、普通の日本人にはなれない新たなパーリアとしての「日本人」という私自身の視点自体がじつはオリエンタリズムによるものではないのか。普通の日本人と中国帰国者という「日本人」は本当に違うのか、という根源的な問を忘れてはならない。
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