1996 Fiscal Year Annual Research Report
近代化過程と労働におけるジェンダー-繊維工業を例とする日独比較社会史-
Project/Area Number |
07610391
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
姫岡 とし子 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (80206581)
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Keywords | ドイツ / ジェンダー / 繊維工業 / 工場法 / 工場監督官 / 女性保護 |
Research Abstract |
本年度は工場で働く女性労働者にどのようなジェンダー規範が形成され、その具体化がどのように行われたのかについて、繊維工業を中心に日本とドイツの比較研究を行った。 そのさいに注目したのが工場法の制定である。ドイツでは1839年に子供の労働保護を目的として最初の工場法が制定され、70年代以降は女性保護が工場法改定にあたって大きな焦点となった。日本では明治30年(1898年)代から子供と女性の保護を目的とする工場法制定に向けた議論が活発になり、1911年に制定される。従来の研究では工場法制定を促した労働実態と法制定による生活実態や労働条件の改善に焦点を当てているものが多いが、本研究では工場法の制定理由より、工場法がどのように構築されたかに注目している。具体的には工場法制定の過程でジェンダー(男女の性差)がどう定義され、どう構築されていくのかを制定過程のディスクール分析を通じて明らかにする。 ドイツでは女性の工場労働は「社会問題」として捉えられ、その解決策として工場法が改訂され、性役割やジェンダー秩序が法的な規範が与えられる。日本では健康問題が争点となり、女性は弱者という規範が確立し、女性の健康保護は母性保護につながり、国家のために壮健な兵士を供給するという論点が登場する。日独両国の社会状況の違いにより既婚女性の工場労働などについて取り上げ方に相違が見られるが、工場法による新しいジェンダー秩序の確立が国家基盤の安定と強化につながるという認識は両国共通であり、近代の強力な国家建設という観点からも工場法は必要とされた。 現在さらに工場法遂行過程にも注目し、ジェンダー秩序の監督と演出に大きな役割を果たした工場監督官、さらには企業家、社会改良主義者のディスクールについても合わせて考察している。
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