1996 Fiscal Year Annual Research Report
「イングランド宗教改革」評価の史的変遷と国民意識の形成
Project/Area Number |
07610392
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
指 昭博 神戸市外国語大学, 外国語学部, 助教授 (90196197)
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Keywords | 宗教改革 / イングランド / ウェールズ |
Research Abstract |
研究の2年目にあたる本年度は、イングランド宗教改革の展開のなかで、同時代(16-17世紀)の歴史家によって表明された宗教改革評価の分析を中心に考察を進めた。その際、神学的側面に関心が集中する傾向が強かった従来の宗教改革研究に対し、等閑視されることの多かった「世俗」の立場からの評価を重視した。すなわち、宗教改革と個々の時代とを結びつけて議論するといった問題意識は、神学者よりもむしろ歴史家の著述に顕著に反映されているので、当時の歴史家の著作から宗教改革をめぐる議論を抽出し、その評価の分析から彼らの考えの背後にあったイギリス人の歴史観・教会観を探り、それらが宗教を核にした国民意識の形成にいかに関わっていたのかを明らかにしようという試みである。 地域として本年度の研究の中心対象としたのがウェールズである。ウェールズでの宗教改革では、ウェールズ語の使用と民族の歴史的アイデンティティとの兼ね合いがその成否を左右する重要な要素であったため、宗教改革が歴史や国民意識と密接な関わりを持った興味深い事例となっている。「統一言語(英語)」による宗教統御という宗教改革の基本線を緩和しながらも、ウェールズの伝説的な民族アイデンティティをイングランドの歴史・伝統のなかへ取り込んでゆくという、かなり巧妙なレトリックのなかに、いわゆる「国民国家」形成期でありながら、内部に多重的な民族文化をも包含するという、その後のイギリス社会の特質の一つを見いだすことができた。
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