1996 Fiscal Year Annual Research Report
イェイツとキップリング-アジア観をめぐる類似性と異質性-
Project/Area Number |
07610468
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
山崎 弘行 兵庫教育大学, 学校教育部, 教授 (50131678)
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Keywords | キップリング / イェイツ / アジア観 / 異文化理解 / 文化的価値 / 宗教 / オリエンタリズム / 文化と文学 |
Research Abstract |
平成8年度の「研究目的・研究実施計画」では、キップリングのアジア観とイェイツのそれを、主として両者の宗教観に焦点をおいて比較検討することを目指した。その結果、次のような研究成果が得られた。 1.キップリングは、インド教(=ヒンズ-教)の神のことを、ほとんど例外なく、godsでなくGodsと記述している。これにたいして、キリスト教の神のことをGodあるいはGodsと記述している。このような記述法は、前後の文脈から判断して、つぎのようなキップリングのアジア観を示唆していると思われる。 (1)多神教のインド教の神をGodsと表象することにより、アングロインデアンの作家キップリングはインド教に対する敬意を表している。 (2)一方、キリスト教の神をGodsと表象するキップリングの意図として、カトリックとプロテスタントという新旧両派の歴史的な抗争にたいする風刺があると思われる。このことは、一神教のキリスト教の相対化に通じ、ひいてはアジア的宗教とキリスト教との間に、文化的価値の観点から見て、優劣の差がないとするキップリングの文化相対主義的姿勢を示唆していると思われる。 2.キップリングと同じく、インドを初めとするアジア各地の宗教に関心を示したアングロアイリッシュの作家W.B.イェイツは、アジア的多神教の神をgods、キリスト教の神をGodと記述する伝統的な記述法を一貫して用いている。その上で、キリスト教とアジア的諸宗教を共に、自己放棄を説く宗教として批判している。 3.しかし、自己の主体性の護持にあくまでも固執するイェイツは、キップリングと比べて、アジア的な諸宗教への共感に乏しい。その意味でより西洋的(=古典ギリシャ的)な作家である。
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