1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07610475
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
武井 ナヲエ 桜美林大学, 文学部, 教授 (40226981)
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Keywords | シェイクスピア / 夢の主題 |
Research Abstract |
夢研究の歴史において、ギリシャ・ローマ時代と中世の橋渡しの役割を果たしたのは、アルテミドロスとマクロビウスである。2世紀、エペソス出身のアルテミドロスは、ギリシャ以来の文献研究と夢解釈の実践に基いて、『夢判断の書』を著し、中世、ルネサンス、更に18世紀に至るまで夢研究の権威と見なされた。彼は彼が夢と定義したもの全てに意義を認めたが、夢の原因か,夢が神から送られるものか、といった理論的問題は避け、如何に実生活に役立てるかという立場から、夢判断の方法を体系づけた。しかし、文学に関する限り、より大きな影響力を持ったのは4世紀のマクロビウスであった。それは、夢解釈の実用面に専念したアルテミドロスと違い、彼は、より哲学的・文学的な問題を多く扱ったためである。彼の名声は主にキケロの『国家論』の一部につけた『「スキピオの夢」注解』に基くものだが、その中で彼は夢を、ホ-マ-の角の門と象牙の門同様、意味のあるものと無意味なものの2種類に分け、更に夫々をいくつかの型に分類している。しかし、彼の功績は、夢理論そのものよりむしろ、キケロが自らの思想を述べるための枠組として夢を用いたその方法を後世に伝えたことにあった。マクロビウスのこの書の影響の下に、中世ヨーロッパに"dream poetry"という詩の様式が流行、この詩形式、特にそれを用いたフランスの『薔薇物語』の影響を受けて、チョーサーは多くの夢を枠組とする物語詩を書いたが、夢そのものについては新しい考え方を示していない。16・17世紀にも、夢に関する理論、研究の面で特別な発展はなかった。夢に関する事も多くは出版されず、あってもアルテミドロス等の古典の復刻であり、理論も古来の学説の繰り返しであった。R.バ-トン,J.スミス,R.ウッド,J.バーナード,サ-・トーマス・ブラウン等の著作を通してみると,この時代には支配的な理論はなく,二つの対立する態度、即ち「角の門」派と「象牙の門」派が共存していたことが分る。このことは、シェクスピアの作品に反映している。シェイクスピア劇における夢については、CD-Romによる検索を終え、派生語を含め、"dream"という語の使用例は163あることが分ったが、その内容の分析は、計画通り、来年度に行う予定である。又、他の劇作家の用法との比較も行う。
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