1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07610475
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Research Institution | OBIRIN UNIVERSITY |
Principal Investigator |
武井 ナヲエ 桜美林大学, 文学部, 教授 (40226981)
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Keywords | シェイクスピア / 夢の主題 |
Research Abstract |
中世文学において重要な役割を果した夢も、ルネサンス期に入るとその役目を終え、文学作品の中で使われることは少なくなってくる。Shakespeareを除き、例外的に夢を多く用いたのはJohn LyLyで、先輩作家として、他の面同様、この点でもShakespeareに影響を与えたかも知れない、数少ない他の例の中には作者不祥の二・三の作品や、Cyril Tourneurの作品等があるが、これらの作品の中における夢は、遠く聖書やギリシャの古典にまで遡ることのできる予兆、または予告としての夢が殆どで、夢に対する見方も、全く無意味なものとするか、未来を予知する超自然的なものとする、伝統的な二元論に基いており、それ以外の新しい態度や使い方は見当らない。Shakespeare劇の中には、こうした伝統的な考え方や、慣用的な手法のほかに、これまでにない夢に対する見方や手法が現れてくる。シェイクスピア作品で使われる夢は、大別すると(1)比喩或はイメージとして使われる夢、(2)登場人物によって語られる夢、(3)舞台上で実際に演ぜられる夢、(4)人間実存のヴィジョンとしての夢、(5)後期ロマンス劇における夢の5種類となる。非常に良いこと、悪いことを夢や悪夢にたとえたり、実体のないものの代名詞として夢を使うことの多い(1)の場合や、登場人物が自分の見た夢を語り、未来の運命に対する不吉な予感を述べ、それがその通りに実現する、Romeo and Juliet,Julius Caesar他の作品で予兆として使われることの多い(2)の場合は、シェイクスピアも殆ど伝統的な考え方、用法に従っている。同一の作品の中で複数の種類の夢が使われることは勿論であるが、Antony and Cleopatra,Hamlet,Othello,Macbeth,King Lear等の円熟期の作品になると(1)、(2)にまじって、(3)と、特に全く新しい(4)の使い方が現れてくる。そこでは、夢は、表面には表れぬ人間や人間社会の真の姿を表徴するものであったり、本人も気付づかぬ人間心理の内奥(無意識)の世界の秘密を明かす媒体であったり、目に見える現実以上に実体のある想像力の産物であったり、と人間の実存にかかわる様々な真実を表現するために用いられている。(5)では、「悲喜劇」というジャンルの特性にもよるが、ロマンス劇はフロイトの言う願望充足の夢の文学ということが出来、作劇術の上でも夢の特性が表れている。
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Research Products
(2 results)