1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07610484
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Research Institution | Notre Dame Women's College |
Principal Investigator |
松井 千枝 ノートルダム女子大学, 文学部, 教授 (60238938)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤戸 淑子 関西学院大学, 社会学部, 教授 (80190057)
新井 康友 ノートルダム女子大学, 文学部, 助教授 (20118590)
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Keywords | 照応(形) / 省略(削除) / 代用形 / 空所化 / 動詞句 / 文体上の階層 / 等位 |
Research Abstract |
☆動詞類の無形照応表現を主に日英語の等位構造を比較分析した結果、次の点が、世界の主要言語にもあてはまり、認知論的(心理学的)観点からも説明される。 (1)無形照応表現は、最初の等位節の終わりの部分、後の等位節の初めと中間の部分に起こる。つまり、文の中央部分、もっと厳密に言えば、文の終わりの方にやや近い中央部分に無形照応表現が現れる。このことは、心理学での記憶・学習実験における系列位置曲線によっても説明される。そこでは、正反応数または正反応率で表すと、凹型の曲線となる。つまり、初頭部の正反応率の高い初頭効果と、末端部の正反応率の高い親近性効果が観察される、ただし、新近性効果は系列を記銘した直後においてのみ、みられる。これは、英語だけでなく、日本語を使った実験でも確認された。その結果、無形照応表現と再生の順序との間には、高い相関関係があると思われる。つまり、無形照応の現われる位置と正再生率の低い位置とが、ほぼ一致する。無形照応表現は、旧情報の発音されない部分なので、情報価値は低く、必ずしも記憶にとどめておく必要はないからであろう。従って、無形照応表現は、文法的な面だけでなく記憶・認知の面からも非常に効果的、経済的なコミュニケイションの方法であるといえる。 (2)平成8年度報告(5)で述べた文法的制約も記憶・認知データから説明される。 ☆日英語の有形・無形照応表現を文体論的、語用論的に比較分析した結果、次の点が明らかになった。 (1)日英語とも、文構造の違いからくる対照要素により、4種類の文体的階層が成り立つ。その階層は、両言語とも非常に類似している。(但し、日本語では主動詞の繰り返しが階層の最上位に加わる。) (2)日英語とも、VPの無形照応表現には、‘時制のあるもの'、‘時制のないもの'の2種類あるが、日本語は両者とも、英語は後者が、あいまいさを引き起こす。時制のないVP照応形は形式ばらない文体に使われる。 (3)英語においてVP照応形の階層内容は、NP照応形の階層内容と一致する。 (4)実際、話しことばのデータとして映画のシナリオ、小説の中での会話を、書きことばのデータとして小説、Timeなどの雑誌を用いた結果は、次の通りである。(1)日英語とも、話しことばの文体では、VPの無形照応表現(及び主動詞の繰り返し〈日本語〉)が、有形照応表現より、はるかに多く現われる。これは、最大に省略された最も経済的な簡潔な表現だからである。書きことばの文体では、照応表現の現われる頻度が、話しことばに比べ、かなり低い。従って、これは、話しことばにおいて非常に有用なコミニュケイションの手段といえる。(2)新情報がV'に加わるV'照応表現では、日英語とも有形照応形(及び主動詞の繰り返し〈日本語〉)が、話しことば、書きことばの両文体に起こる。それは、文体的安定のためからであろう。(3)英語では、有形照応形のうち do so は、話しことばの文体ではめったに起こらず、形式ばった書きことばの文体に起こる。それは、統語的文脈においてのみ起こるやや形式ばった表現だからである。do it は、話しことば・書きことばの両文体の中で最も頻度が高いのは、統語的だけでなく実際の場での文脈にも使われ、 do that ほどの強調性が加わらないからであろう。(4)書きことばの中でも、より形式ばった文体では日英語とも、主に有形照応表現が使われる。
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[Publications] 松井 千枝: "A Stylistic Study of Verb Phrase Anaphors in English and Japanese" Language and Style(An International Journal). (掲載予定).
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[Publications] 松井 千枝: "On Zero Verb Phrase Anaphors in English and Japanese from Cognitive Viewpoints" ノートルダム女子大学研究紀要. 28. 21-38 (1998)