1996 Fiscal Year Annual Research Report
ゴットフリート・アウグスト・ビュルガ-の風俗史的研究-ドイツ啓蒙主義時代の知識人の「不機嫌」について
Project/Area Number |
07610500
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Research Institution | HIROSHIMA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
佐藤 正樹 広島大学, 総合科学部, 助教授 (90131143)
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Keywords | ビュルガ-、G. A. / 啓蒙主義 / 風俗史 / フリーメイスン / ドイツ文学 / ドイツ社会史 / 18世紀 / 女性史 |
Research Abstract |
ビュルガ-を、「才能と評価」、「才能の消耗」、「女性関係」、「詩に現れた女性像」という四つの視点から検討した結果、ビュルガ-と「規範」という新しい問題点が明らかになった。 1.ビュルガ-はホメ-ロスのドイツ語訳の事業にあたり、原典の韻律であるヘクサメトロン(伝統的規範)に対しイアンボス(新しい規範)を提唱し、実践した。しかしクロプシュトックの叙事詩と、わけてもフォスによるホメ-ロス独訳の成功によって、伝統的な規範の健在であることが実証され、ビュルガ-の企画は挫折した。 2.ビュルガ-の「詩に現れた女性像」には、たしかに古い価値観に虐げられた女性への温かいまなざしが感じられる。彼の詩はその女性観において明らかに新しい規範を示唆するものであった。しかし彼の結婚生活の破綻は、実生活においてビュルガ-自身が伝統的な価値観(家父長制度)から一歩も出ていなかったことを証明した。この局面ではむしろ古い規範にこだわるビュルガ-が新しい規範についていけなかったことを示している。 3.長きにわたってヨーロッパ人の生活万般を規制してきたキリスト教、とくにカトリシズムの規範は、十八世紀にいたってようやくほころび始めた。キリスト教会の普遍性の要請は啓蒙主義とその理性の要請の前に屈伏せざるをえなかった。「理性」という新しい規範がもたらした不幸については別に検討する必要があるが、フリーメイスンはとくにドイツにおいて啓蒙主義の代名詞ともなり、キリスト教主義に立脚しながら、それに代る新しい規範を提示しうるものと期待されたはずである。ビュルガ-はそこに期待をかけた。しかし、ロ-ジェの集いが解かれ、絶対主義末期の国家情勢という現実世界に帰ったとき、結社の標榜する新しい規範は、現実社会の規範とはなりえなかったのである。ビュルガ-は新旧いずれの規範にも見放されたよるべない晩年を迎えた。
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