1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07610503
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
早川 東三 学習院大学, 文学部, 教授 (00080416)
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Keywords | 言語政策 / 外来語 / 第3帝国 |
Research Abstract |
本年度、1934年(ナチの政権奪取から1年経過)の文芸雑誌などを調査したところ、更に特定の外来語に意図的なコノテーションを与え、それをひろく一般に浸透させる、というナチ・デマゴ-グの企て(それは成功した)が観察された。興味深かったのは、特にIntellektuellerの例である(形容詞を名詞化して「知識人」の意味に使ったもの)。ヒトラーはこの語を直接使うことを避け、Arbeiter der Stirn,Arbeiter am Tischと称したし、その他の場合でも,害虫、ユダヤ人などという語と併用することで、「インテリゲンチャ」にはネガティヴな含意が-いわば暴力的に-与えられた。1944年7月のヒトラー暗殺未遂事件に関して、ゲッベルスが「このような卑劣な企てを行う頽廃的インテリゲンチャに対しては超法規的な処断も許される」と述べたことは、それを証拠立てている。Intellektuellという外来語形容詞はすでに1769年のドイツの辞書に収録されているが、その名詞形が登場するのは20世紀前半のことである。ここに注目すべきは、その間にあった出来事との関係である。19世紀末、フランスでドレフュス事件が起こった。周知のとおりジョルジュ・クレマンソ-は自ら率いる新聞「オーロラ」の紙上に「余は弾効する」という政府、軍部、保守派批判の論陣をはり、これに賛同する人々の署名が併せ発表した。保守派ジャーナリズムはこれらの賛同者らを「インテリゲンチャ」と名付け、非難を行ったのである。この語に否定的なコノテーションが付与された最初である。ドレフュスがアルサス出身(姓が示すごとくドイツ系)ユダヤ人であったこともあり、フランス世論の反ドレフュス、反インテリ感情には火がついた。他方ドイツの新聞はそうした語法に慎重であった。そしてこの出来事が、intellektuellという形容詞のドイツ語辞典登場と、インテリゲンチャとレッテルを貼られることが、時に収容所送りを意味しかねないナチの時代との中間に位置していたことに注目すべきであろう。今後この線上の研究を続けてゆきたい。
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Research Products
(1 results)