1930年代ソ連在住日本人の粛清の規模とメカニズムについての研究

1997 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 07620055
• Research Institution: Hitotsubashi University
• Principal Investigator: 加藤 哲郎 一橋大学, 社会学部, 教授 (30115547)
• Keywords: ソ連 / スターリン / 共産主義 / 野坂参三 / 山本瑩蔵 / 片山潜 / 国崎定洞 / 日本共産党

Research Abstract

本研究の目的は、ソ連崩壊で明るみに出た秘密文書を発掘・解読しながら、ソ連在住日本人に対するスターリン粛清の規模とメカニズムを探求することであった。その基礎は、申請者が『モスクワで粛清された日本人』(青木書店、1994年)及び『国民国家のエルゴロジー』(平凡者、1994年)で挙げた、約80名の粛清候補者リストであり、その後の聞き取り調査等でデータベース化してきた
最終年度である第3年度には 研究費で購入したパソコン・スキャナー等を用いて、懸案であったインターネットの専用ホームページを97年8月に立ち上げ、「現代史の謎解き」ページと題して、これまでの研究成果をもとにしたデータベースをそのまま掲載した。その結果、飛躍的に広く関係者の情報を集めることとなり、いくつかの重要な関連情報が電子メール等で寄せられた。
その結果と概要は、『読売新聞』1998年2月5日に大きく報道されたが、この3年間で、1920年代・30年代にソ連に在住した86人の日本人について探求し、(1)旧ソ連秘密文書など記録による粛清確認者32名(内銃殺15名、強制収容所6名、国外追放4名、逮捕後行方不明6名、逮捕後釈放1名)、(2)資料・証言で逮捕・粛清の可能性濃厚16名、(3)1936-38年在ソ連が確認され以後行方不明2名、(4)ソ連側資料で当時在ソ連が推定され行方不明約10名、(5)日本側資料で当時在ソ連が推定され行方不明約20名、(6)大粛清期前後の日本人推定犠牲者6名をデータベース化できた。また、そこに、日本人共産主義者同士の疑心暗鬼による密告・告発と、ソ連秘密警察による拷問・強制自白の結合による、明瞭な粛清連鎖のメカニズムを発見して、相関図に仕上げた。
特に第3年度は、これまでの本研究の総括を英文論文にまとめた。この英文論文は、スターリン粛清研究の国際的センターとなっているドイツ・マンハイム大学社会史研究所ヘルマン・ヴェーバー教授の要請により、同研究所編『歴史的共産主義研究年報 1998年版』に寄稿したもので、同時にこれをインターネット上にも公開し、広く世界から情報収集するシステムが確立した。本研究の副産物として、すでに安保由五郎・勝野金政・片山千代らの粛清資料と遺族を発掘し名誉回復をはかってきたが、本報告書作成直前には茨城県出身箱盛平造の遺族をみつけることができた。この3年間で10回以上も新聞で取り上げられたように、わが国ではもちろん、世界でも初めての研究として、所期の目的を達成し得たと結論づけることができる。

Research Products

• [Publications] 加藤 哲郎: "国境を越える夢と逆夢" 月刊百科. 393. 36-40 (1995)
• [Publications] 加藤 哲郎: "国崎定洞" 思想の科学. 38. 45-49 (1996)
• [Publications] 加藤 哲郎: "政治と情報-旧ソ連秘密文書の場合" 社会と情報. 創刊号. 6-17 (1996)
• [Publications] KATO,Tetsuro: "The Japanese Victims of Stalinist Terror in the USSR" Jahrbuch fur Historische Kommunismusforschung. forthcoming. (1-11) (1998)
• [Publications] 川上武・加藤哲郎: "人間 国崎定洞" 勁草書店, 416 (1995)
• [Publications] 刊行委員会(加藤哲郎他編): "近代日本社会運動史人物大事典" 日外アソシエ-ツ(全5巻中約60項目), (1997)