1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07620067
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Research Institution | KOKUGAKUIN UNIVERSITY |
Principal Investigator |
坂本 一登 國學院大學, 法学部, 助教授 (70178565)
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Keywords | 王室儀礼 / 政治エリート / 大衆民主主義 / 発明 / 王室 / ヴィルヘルム二世 / 天皇 / 国威発揚 |
Research Abstract |
本年度の研究は、王室儀礼という点から、日・独・英三国の君主制の比較をおこなった。一九世紀後半から第一次世界大戦勃発までの時期は、各国において王室儀礼が著しく発達した時期にあたっている。通例、この現象は次のように解説される。王室儀式は、古い歴史を持つと考えられているが、実は選挙権の拡大に起因する大衆民主主義に対する恐怖と産業化の進展に由来する社会的な不安定に対処するために、一九世紀後半政治エリートによって新たに「発明」されたものであると。しかし、この時期の王室儀礼の発達を、このようなエリートの支配意図にのみ還元するのは単純にすぎる。王室儀礼の発達は、政治エリートによる国民の馴化だけでなく、王室が大衆民主化の時代に積極的に適応し変貌していく過程でもあった。それゆえ儀礼の発達には、政治エリートの意図とともに、儀礼を受け取る国民の意向が敏感に反映し、王室儀礼は国民の自画像といった一面を持っている。また、各国とも儀礼の発達は共通に見られるが、当時その国が置かれた国際的地位、君主の個性、君主と政府との権力関係などが複雑に絡み合って、各国の儀礼の発達の仕方に特徴を与えている。こうした観点から、日・独・英の三国を比較してみると、大変興味深い。英国の場合は、王室が最終的に政治権力を失い、政府が権力を掌握していく過程と貴族を中心とした議会政が大衆民主政へ転換していく過程に連動している。日本とドイツの場合は、英国と比べると国際的劣位に置かれていたため、対外的要因がより大きく、国威発揚を図るナショナリズムの要素が王室儀礼の形成に大きな影響を与えている。しかし、日本とドイツとの間にも相違があり、ドイツの場合、ヴィルヘルム二世の特異な性格が、発展し自信をもったドイツの自己表現を望む国民の意向と同様、色濃く反映し、日本の場合は、当初から君主としての天皇の個人的な影響力は小さく、かつ大衆化が早い事が指摘できる。
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