1995 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス機械産業におけるクラフト的規制の起源と条件に関する労使関係史的研究
Project/Area Number |
07630073
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Research Category |
Grant-in-Aid for General Scientific Research (C)
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
小野塚 知二 横浜市立大学, 商学部, 助教授 (40194609)
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Keywords | イギリス機械産業 / クラフト的規制 / 熟練 / 職場秩序 / 入職規制 / 能力評価 / 賃金格付け / 職種間賃金格差構造 |
Research Abstract |
平成7年度の研究によって以下の仮説的知見を得た。(1)機械産業生成期に発生した新たな職種(たとえば旋盤工、仕上組立工、機械木工など)を、旧来の熟練職種(時計製造工、ミルライトなど)との関係で、職場秩序の中にいかに位置付けるかという問題を、当時の労使当事者は徒弟制度など入職規制の可否の問題として処理しようとしたが、それは最終的には新職種の賃金格付(熟練賃格を与えるか否か)として表現された。つまり、問題は誰が労働過程を実質的に支配するかという職場内的な性格より、むしろ熟練資格=熟練賃格という企業外的=社会的な性格を帯びることとなった。(2)19世紀前半のイギリス機械産業に関して、職場編成や労働過程の実態を確定するに足る資料がおそらくほとんど存在していないとういうことも、職場内的な問題領域としては認識されていなかったことの傍証となるであろう。(3)19世紀第4四半期の熟練労働者の賃格は、当時発生しつつあった企業内的半熟練労働者を別にしても、従来の想定以上にはるかに多様であり、賃率は市場動向などに対応して変動していたが、熟練諸職種および半熟練・不熟練諸職種間の賃金格差構造は高度に安定的であった。かかる職種間賃金格差構造の安定性が熟練労働者の階層性を支えていた。(4)社会的な賃格構造と職場のクラフト的規制を接合する環は、19世紀を通じて労使当事者の認識においては、労働者の能力(merit)評価と職能別時間給の賃格決定についての労使双方が暗黙に合意する方法であると考えられる。 本研究は概略以上の認識を得たが、新職種の形成と職場実態の変化、賃格決定メカニズム、熟練の養成・認定や供給・調達など、実証的には充分に究明されていない点が残されており、クラフト的規制の形成と維持の論理構造を再構成しうる段階にないため、今年度は研究成果の発表にはいたらなかった。
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