1996 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫における種間相互作用における形質進化と群集形成過程
Project/Area Number |
07640839
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
曽田 貞磁 信州大学, 理学部, 助教授 (00192625)
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Keywords | 昆虫 / 形態 / 種間交雑 / 配偶行動 / 雑種形成 / オサムシ / 交尾器 / 地理的変異 |
Research Abstract |
今年度の調査研究は主に長野県天竜川流域(伊那谷)のアオオサムシ種群を対象にした.伊那谷のアオオサムシ種群は形態的に北に分布するアオオサムシと南に分布するテンリュウオサムシに区別できるが,中間地域の集団は両者の特徴を合わせ持つ個体から構成される.また,中間的個体が分布する位置は天竜川の右岸と左岸で異なる.左岸では,沢川と三峰川の間のイナオサムシと呼ばれる集団が前述2種の中間的特徴を持ち,集団内では明かに前述2種とみなされる個体は存在しない.このことは,イナオサムシが過去の交雑に由来する雑種集団として存続していることを示唆する.一方右岸では,アオオサムシは小黒川以南ではより小型で,交尾片の短い型となり,中田切川北岸まで分布する.中田切以南ではテンリュウオサムシと分類できる集団が分布するが,中田川切の直南の飯島町の個体にはイナオサムシのような交尾片を持つ個体がみられる.また,中田切川が天竜川と合流する地点に面する天竜川左岸の吉瀬でもイナオサムシに似た交尾片を持つ個体がみられる.したがって,右岸においても種間交雑が起こり,戻し交雑によって中間地域に遺伝子浸透が起こっている可能性がある.配偶者選択実験では,アオオサムシとテンリュウオサムシの雄は交尾前には異種を識別できなかった.しかし種間交尾が成功する確率は,2種の体サイズ差のため低かった.種間交雑での受精率は低いが,孵化した卵の羽化率は極めて高かった.雑種個体の形態・生存繁殖力については調査中だが,雑種はイナオサムシに類似する.イナオサムシ集団が雑種集団として存続しているとすれば,人工雑種の生存・生殖力も高いはずである.遺伝的関係を明かにするためmtDNAの配列を予備的に行ったところ,天竜川左岸のアオオサ・イナオサ・テンリュウオサの配列の違いは0.5%にすぎず,ごく最近分化したか,近い過去に遺伝的交流を持ったことは明かである.
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