1996 Fiscal Year Annual Research Report
隔離分布する蘇苔類種の集団内・集団間遺伝的多様性の推定に関する研究
Project/Area Number |
07640932
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Research Institution | HIMEJI INSTITUTE OF TECNOLOGY |
Principal Investigator |
秋山 弘之 姫路工業大学, 自然・環境科学研究所, 助教授 (70211696)
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Keywords | 蘇苔類 / 隔離分布 / 遺伝的多様性 / ナンジャモンジャゴケ / Takakia |
Research Abstract |
地理的に隔離分布する種としてナンジャモンジャゴケTakakia lepidozioides (4集団)、広範囲に分布するが特定のハビタットにのみ生育する、つまり各集団が生態的に隔離されている種として、ウキゴケ(26集団)、イチョウウキゴケ(31集団)、オオミズゴケ(8集団)、以上の4種について、集団内ならびに集団間に見ら得る遺伝的多様性を、アロザイム多型を用いて推定した。これら4種は、ほとんどあるいはまったく有性生殖を行わず、無性的に繁殖している点が共通している。なお、ナンジャモンジャゴケについては、別経費によりマレーシア国キナバル山の1集団を調査できたので、本研究の解析に含めた。 ナンジャモンジャゴケは、雄植物が知られておらず、栄養繁殖のみに依存しているが、4集団(日本3集団、マレーシア1集団)ではH=0.032-0.1182の値を示し、集団内に遺伝的多様性が存在することを示している。また、集団間の関係では、地理的に近い日本3集団間の遺伝的距離(D)が平均で0.053、マレーシア集団との間でD=0.043となり、ほとんど相違が見られない。本種の遺伝的多様性はそのほとんどが集団内多型によるものであることが判明した。 イチョウウキゴケ、ウキゴケ、オオミズゴケでは、地理的に隔絶した琉球の2集団をのぞき、集団内に遺伝子多型は見いだせなかった。これらは、単一の集団がすべて同一クローンから成り立っていることを示していると解釈できる。 一方、集団間における遺伝子多型の点では、これら3種は異なる性質を示した。イチョウウキゴケ、オオミズゴケでは集団間遺伝子多型はまったく観察されず、集団間に高い遺伝子流動が存在することを示している。ウキゴケでは異なる対立遺伝子に固定した集団が複数存在おり、地域ごとに高い分化を遂げている どのような機構で栄養繁殖する種に集団内多型が維持されているのか、ウキゴケとイチョウウキゴケ・オオミズゴケに見られる性質の違いの原因については、あらためて調査する必要がある。
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