Research Abstract |
北海道大雪山系,利尻岳,枝幸海岸,阿寒岳周辺で採集した耐陰生地衣類約200点に関して分類学的研究を行った。研究に用いた主な分類形質は,地衣体の形成過程,子嚢果と粉子器の形態,生殖細胞の形状,化学成分の変異,着生基物特異性などである。これら形質の検討においては特に下記の点に留意した。 1)化学的変異群の特定:耐陰生の地衣類にも複数の化学的変異株の存在が予想されるので全種類について化学的特性を明らかにする。成分の検定には薄層クロマト法と高速液体クロマト法を併用した。 2)形態的特徴の検討:地衣体や子嚢果の形態の中で,生殖器官特に子嚢上部の微細構造,粉子器と粉子の形状,共生藻の特徴は重要な分類形質と考えられるので,地衣成分の異同や変異,基物特異性などとも関連させて検討した。 得られた資料を検討した結果,これまでに以下に示す17種の耐陰性地衣類が日本から初めて確認された;Anisomeridium nyssaegenum,Arthonia spadicea,A.vinosa,Chrysothrix candelaris,Cliostomum friffithii,Enterographa zonata,Lopadium disciforme,Maronea constans,Opegrapha gyrocarpa,O.varia,Pachyphiale carneola,P.fagicola,Porina mammillosa,Scoliciosporum chlorococcum,S.umbrinum,Strangospora moriformis。これらは何れも固着地衣で日陰で湿った環境を好んで生育する。大型地衣類ではイワノリ属やハイイコロキゴケ属が日陰を好んで生育することがわかっているが,これら葉状地衣は共生藻にNostoc属を持つのに対し,今回発見された種は何れも緑藻のTrentepohliaを含んでいるてんが注目される。また,多くの種は二次代謝産物である地衣成分を含まないが,岩上性のE.zonata,O.gyrocarpaには複数の化学的種内変異株の存在が確認された。
|