Research Abstract |
本研究では,鉄酸化細菌の生成物であるFe^<3+>による阻害機構の解明を検討し,阻害軽減を図ることを目的として行われ,以下の知見を得た。 1.集積培養菌において,細菌が増殖しない条件で,初期Fe^<3+>濃度を変化させ結果,Fe^<3+>濃度が大きくなるほどFe^<2+>酸化速度は低下した。この阻害機構は従来報告されている拮抗的阻害では説明できないものであった。 上記の集積培養菌から鉄酸化細菌を単離したT23-3株を用い,純粋培養系において同様の実験を行った結果,集積培養菌と同じ傾向が得られた。すなわち,生成物阻害効果および機構は,集積培養と純粋培養では同じものであることが確認された。 鉄酸化細菌Thiobacillus ferrooxidansの世界的な標準株であるATCC23270株を使用して,Fe^<3+>による阻害実験を行ったところ,集積培養菌と同様の結果が得られた。さらに,同和鉱業(株)小坂製錬所から単離したE-15株でも同様であった。すなわち,鉄酸化細菌の生成物阻害機構は,単純な拮抗的阻害モデルでは説明できないことがわかった。 Fe^<3+>による鉄酸化細菌の阻害機構を定量的に評価するために,新たな阻害モデルを作成した。本モデルでは,鉄酸化細菌の生成物であるFe^<3+>は,鉄酸化酵素に対して2:1の割合で拮抗的に作用するとした。その結果,鉄酸化細菌の標準株,単離した菌株および集積培養菌のいずれにおいても,実験的に求めることのできる最大酸化速度,ミハエリス定数および阻害定数の3つのパラメーターで表現することができた。 本研究で使用した菌株において,1cell当たりの酸化速度はT23-3株が最も大きかったが,Fe^<3+>による阻害を受けやすいことがわかった。一方,ATCC23270株は,酸化速度は小さいが,阻害を受けずらいという性質を有していた。すなわち,Fe^<3+>による阻害機構は同一でも,菌株により阻害の受け方が異なることが見いだされた。したがって,鉄酸化細菌を利用する環境のFe^<3+>濃度に応じて使用する菌株を選択することにより,生成物阻害を軽減することが可能となることが確認され,その選択に際して本モデルは有効である。 本研究の結果,増殖のない条件下における鉄酸化細菌の生成物阻害に関して,その機構は菌株によらず同じであることが見いだされた。しかしながら,生成物阻害の増殖に及ぼす影響は,未解明な部分が多く今後の課題となる。
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