Research Abstract |
水稲の暗呼吸速度と体内窒素濃度との間には正の相関関係があることが認められている.しかし,部位別の相違や老化に伴う暗呼吸速度の変動に及ぼす諸要因の影響に関しては不明な点が多い.本報告では窒素濃度が部位別(個体,根,葉身,茎)の暗呼吸速度(Rr)に及ぼす影響を検討するため,水稲品種日本晴を供試して,窒素濃度の異なる培地に生育した水稲のRrを測定した. 幼植物を用いた実験では,ポット育苗箱とバットを用いて水耕栽培を行い,木村氏B液の濃度を変更して,対照区(1N区),無窒素区(0N区),アンモニア態窒素濃度3倍区(3N区)の3水準を設定し,処理開始後24日に部位別のRrを測定した.また,1/2000aワグネルポットにポット当たり3株を移植後,収穫期まで木村氏B液で水耕栽培を行った対照区(1N区)とアンモニア態窒素濃度を倍量添加した2N区について,生育に伴う部位別のRrの推移を比較した.水稲幼植物の暗呼吸速度(Rr)は,培地窒素濃度が高いほど高く,単位窒素当たり(R_N)で見ると培地窒素濃度が低いほどR_Nは高い傾向にあった.植物体内の窒素濃度(N%)は,培地窒素濃度が高いほどN%は高く,いずれの区とも葉身のN%が他の部位に比べて高かった.RrとN%との間には,個体および各部位ともに密接な正の相関が認められた.ポット水耕栽培した水稲個体の生育に伴う暗呼吸速度は,両区ともに移植直後に高く,その後漸次低下し,生殖生長期移行後ほぼ一定で推移したが,収穫期には若干高まった.区間で比較すると移植後20日頃から収穫期まで,1N区に比べ2N区のRrが高く推移したが,単位窒素当たりに換算すると両区の相違は小さくなった.RrとN%との間には個体,各部位ともに栄養生長期には両区ともそれぞれ有意な相関が認められたが,回帰式の傾きは2N区に比べて1N区で大きかった.生殖生長期には両区ともにN%が異なってもRrはほぼ一定値をとった.出穂期以降における葉位別のRrの推移を比較すると,生葉では上位>中位>下位の順にRrは高く,移植後100日目までほぼ一定で推移したが,それ以降若干上昇した.枯葉のRrは乾燥した状態では生葉に比べ著しく低かったが,吸水処理に伴ってすべての測定時期において生葉よりも高くなった.そこで,圃場で慣行栽培を行った水稲を用いて,吸水処理による影響を調べた結果,生葉ではRrの変化がみられないのに対して,枯葉ではRrが著しく上昇した.殺菌・吸水処理を行っても,枯葉のRrは上昇し,また乾熱処理(100°C)をして,吸水後測定するとRrは上昇しなかったことから,吸水処理によって枯葉自体がCO_2を放出していることが確認された. 以上の結果,栄養生長期には,暗呼吸速度は植物体内の窒素濃度に強く影響を受けるものの,老化に伴いその影響は小さくなること,および外見上枯死したとみられる葉身においても吸水処理により構成物質の分解が促進されることが推察された.
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