Research Abstract |
大分県南部,長崎県対馬,鹿児島県川内川流域,鹿児島県奄美大島地方で現地踏査や調査を行うとともに,大分県南部,長崎県対馬地方については,民有広葉樹林所有者を対象にアンケート調査を実施し,1)所有者の民有広葉樹林の経営管理,利用状況の実態と課題の解明,2)木材生産および自然環境保全の観点からみた民有広葉樹林の林況現況の解析・評価,3)広葉樹材の生産・流通の3項目について調査研究した。結果は,昨年度調査分と併せて分析中であるが,概要は以下のとおりである。1)については,所有者の経営意識に関して種々の点がうかがわれたが,大分や対馬ではシイタケ原木林としての利用が多く,対馬ではケヤキなどを中心に有用広葉樹育成の動きがみられた。どの地域でもパルプ材の需要が減少したことによる経営目的の喪失や意欲の減少が顕著であった。2)については,長崎県対馬地方では北部にケヤキを交えた有用広葉樹の林分が多く,将来の有用広葉樹林への誘導が有望であること,鹿児島県川内川流域では形質のすぐれたイシ林分が多く,用材林経営の可能性があること,鹿児島県奄美大島地方には豊富な常緑広葉樹林がみられ,資源的に成熟しつつあることがわかった。また,いずれの地域においても地域の環境や生態系と深い関わりを持っており,対馬や奄美大島では稀少野生動物(ツシマヤマネコ,アミマノクロウサギ)の保護に関し,民有広葉樹林の保全が重要な問題となっている。3)については,パルプ材の需要が大きく減少し,大きな問題となっていることがわかった。対馬や奄美大島などの離島では,需要が減少し,また採算がとれないために操業を停止するチップ工場が続出し,地域経済上,問題化しつつある。対策として,奄美大島では広葉樹材を工芸面で加工利用する試みが始まっている。一方,川内川流域ではシイ材が生産され,素材市場で現地のスギ材と比べて遜色のない価格で取り引きされている。
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