急性膵炎重症化における一酸化窒素(NO)産生とその分子機構に関する研究-誘導型NO合成酵素(iNOS)遺伝子活性化の分子生物学的解析-

1996 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 07670556
• Research Institution: Tohoku University
• Principal Investigator: 下瀬川 徹 東北大学, 医学部・附属病院, 助手 (90226275)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 小泉 勝 東北大学, 医学部, 講師 (40111281)
• Keywords: 急性膵炎 / 重症化機序 / Nitric Oxide / NF-κB / IRF-1 / 転写調節因子 / サイトカイン / 治療

Research Abstract

1.膵炎モデルでのNO産生とその機序:重症急性膵炎モデル(TCA膵炎)では、腹腔マクロファージ(Mφ)にiNOS蛋白が発現することをiNOS抗体を用いた免疫組織化学と共焦点レーザー顕微鏡で確認し、RT-PCRにてiNOSmRNA発現が生じることも確認した。一方、軽症膵炎モデル(CA膵炎)では、腹腔MφにiNOS mRNは誘導されるが蛋白発現は見られず、NO産生も亢進しなかった。すなわち、両モデルではiNOS発現にpost-translationalな差が存在する可能性を明らかにした。TCA膵炎モデルの腹水中にはIFN-γとend otoxinが検出され、これらが誘導因子である可能性を示した。
iNOS誘導のための転写調節因子活性化・TCA膵炎の腹腔Mφでは、NF-κBとIRF-1の強い活性化が生じていることをgel-shift assayで確認した。CA膵炎モデルでも、NF-κBとIRF-1は弱い活性化を受けていた。CA膵炎モデルの腹腔Mφを分離し、LPS刺激によるNO産生能を正常腹腔Mφと比較した。CA膵炎のMφはより低用量のLPSでNO産生が亢進し、部分的に活性化された状態(priming)にあることを明らかにした。
腹腔Mφのpriming因子・腹腔Mφのpriming因子を検索した。PLA2阻害剤が、TCA膵炎とCA膵炎いずれの腹腔MφのNF-κB活性化をも有意に抑制する結果を得た。
4.NF-κB阻害剤と抗IFN-γ中和抗体の作用:NF-κBの特異的阻害剤PDTCとIFN-γ中和抗体を投与すると、TCA膵炎動物の死亡率が著しく軽減され、NO産生も強力に抑制された。
HUVECにおけるICAM-1発現:TCA膵炎の腹水上清には、同様の機序でヒト臍帯静脈内皮培養細胞HUVECに接着因子TCAM-1を誘導する因子が存在し、この発現にはNF-κB、NF-IL6の活性化が必要であることを確認した。この液性因子はE-selectinの発現は惹起せず、重症急性膵炎患者の腹水や血清中にも、同様の液性因子が存在することを確認した。
本研究の結果、重症急性膵炎では腹腔Mφの強い活性化が生じ、何らかの液性因子が分泌され血中に入ることにより、全身の網内系細胞や血管内皮細胞が活性化されて多臓器不全に至る分子機序が明らかとなった。今後、重症急性膵炎に特異なこの様な病態を形成する液性因子の同定が必要である。また、本研究の結果、FN-κBを中心とする転写調節因子の活性化を特異的に抑制することにより、膵炎の重症化を防止し重症膵炎患者の致死率を軽減できる可能性が示された。

Research Products

• [Publications] 下瀬川 徹: "The role of nitric oxide in mouse cerulein-induced pancreatitis with and without lipopolysaccharide pretreatuient." Paucreas. 12. 68-75 (1996)
• [Publications] 下瀬川 徹: "Transgenic copper/zinc-superoxide dismufuse ameliorates caerulein-induced paucreatitis in mice." Biochem. Biophys. Res. Commun.(in press). (1997)
• [Publications] 下瀬川 徹: "The role of pituitary-adrenal counterregulation of inflamnation in cerulein-induced paucreatitis: A comparison between Fischer and Lewis rats." Paucreas. 12. 280-285 (1996)
• [Publications] 下瀬川 徹: "Lipopolysaccharide induces manganese superoxide dismufase in the rat paucreas: Its role in caerulein paucreatitis." Biochem. Biophys. Res. Commun.217. 1216-1222 (1995)
• [Publications] 下瀬川 徹: "The role of endogenous glucocorticoids in rat expan mental models of acute pancreatitis." Gastroenterology. 109. 933-943 (1995)
• [Publications] 下瀬川 徹: "Nitric Oxide modulates paucreatic edema formation in rat caeruleiu-induced poucreatitis." J. Gastroenterol.30. 636-642 (1995)
• [Publications] 下瀬川 徹: "消化器疾患とNO.-石井裕正 編集" 医歯薬出版, 5 (1997)
• [Publications] 下瀬川 徹: "NOのすべて-平田 結喜緒 編集" 医歯薬出版, 6 (1996)