Research Abstract |
初年度の研究実施計画を以下の2段階とした. (1)唾液因子を導入した細胞培養液の試作 唾液は組織培養液と異なり緩衝能は低く,pHは不安定である.まず,唾液と同等の緩衝能で細胞培養が可能かどうか検討する目的で,唾液ならびにグリーンウッド氏の人工唾液,および市販人工唾液(サリベート)を添加した培養液で,L-929細胞,HEp-2細胞,RC2細胞,Chang Liver細胞を培養した結果,唾液では25%添加で,2種の人工唾液では50%以上の添加でそれぞれ細胞増殖が大きく抑制された.また,炭酸ガス恒温器内でHanks平衡塩類溶液の緩衝能以下に調整した場合には,いずれの細胞も24時間以上の培養は不可能であったものの,閉鎖環境における培養系では4日間の培養が可能であった.さらに,Eagle MEMの硫化成分を基本組成の5倍程度の添加,ならびにタンパク質として従来のアルブミンの他にムチンの添加も可能である知見が得られた. (2)種々の補綴材料の細胞毒性評価 上記の結果を踏まえて,Eagle MEMに人工唾液(グリーンウッドまたはサリベート)を50vol%添加した培養液を用いて,密閉容器中で粉末状のAu-Ag-Pd合金,Ag-In合金,Ag-Sn合金,Co-Cr合金,Ni-Cr合金,TiおよびCuを抽出しつつ,HEp-2細胞を最大5日間培養し,細胞回復度を調べた.その結果,いずれの金属においてもEagle MEM単独による培養結果と比べて細胞回復度がわずかに低下した.Au-Ag-Pd合金,Ag-Sn合金,Co-Cr合金ならびにTiではこの傾向は少なかったが,Ag-In合金,Ni-Cr合金では細胞回復度は大きく低下した.以上のことから,歯科材料の細胞毒性を評価する際に,重要な口腔内環境因子である唾液を導入した環境における試験の可能性を拡く上での示唆が得られた.
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