Research Abstract |
本研究は,第四紀末期の顕著な環境変化に伴って形成・発達してきた沖積低地の,とくに,更新世/完新世境界付近,すなわち約1万年前頃における地形形成と堆積環境の変化を,海水準変動などのこの時期の環境変化との関係のもとに解明しようとするものである. 本年度では,とくに,濃尾平野におけるボーリング資料を詳しく検討することにより,同平野における沖積層下部(濃尾層)の分布状態および層相の特徴把握を行うとともに,同層とそれを覆う沖積層上部(南陽層)との関係,また,南陽層下部の層相変化について検討した.その結果,すでに古川(1972)によって,木曽川下流部の立田村付近において,地表下約32m付近にカキ礁が存在することが報告されているが,同論文において報告された地点の周辺にも同様のカキ殻層や貝化石を多く含む層が存在し,その周辺一帯においてもカキ礁の形成されやすい環境が広がっていたことが明らかになった.さらに,濃尾層をおおう南陽層下部の層相変化にもとづいて堆積環境の変化を推定すると,濃尾層の堆積後に一時的な海水準の低下があり,不整合が形成された可能性が大きく,また,濃尾層を覆う南陽層下部が一気に海成層へと変化するのではなく,海成→汽水成→海成あるいは汽水成→淡水成→海(汽)水成へというように変化する地点があることが明らかになり,これらが,当時のデルタにおける位置の違いを反映したものであること,全体として,濃尾層の堆積以後,若干の海退とその後の海進,一時的な海水準上昇速度の鈍化,急激な海水準上昇があったことが推定された.これらの変化は,アレレ-ド,ヤンガー・ドリヤスといった更新世最末期の環境変化とのかかわりを示唆しており,また,松島(1987),遠藤ほか(1991)などによって示される完新世初期の海水準変動などと調和しているほか,濃尾平野におけるカキ礁の形成,泥炭層の発達と関係を持っていることが推定された.
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