Research Abstract |
1991年6月以降に発生した長崎県雲仙普賢岳の火山活動に伴い,長崎県島原市において被災した約8000名の住民に関して,行政資料をもとに,先ず,1995年6月までの居住地移動の実態と,世帯属性などの情報を含むデータベースを構築した。次にこのデータベースと他の行政資料を用いて,被災住民の転居先の住居特性(例えば仮設住宅,被災者用の公営住宅,民間住宅)などに注目し,クラスター分析により被災地域内の18の町の間の類似性を明らかにした。そして,その類似性は行政域としての町の形状,普賢岳との位置関係に強く関連していると解釈できた。次に,上記のデータベースを用いて,被災住民の転居先の空間的な展開について調べた。その結果,転居の過程で分裂した世帯と,分裂しなかった世帯とでは,転居地の空間的展開に相違があることが判った。さらに,壊滅的な被害を受けた4町を採り上げ,居住地移動の空間的な展開を詳細に解析した。その結果,転居先はいくつかの特定の町に集中するが,入居施設の多くが,行政により提供された被災者専用の住居あるいは家賃補助制度の対象となる民間住居であることが判り,被災者の経済的自立の遅れが居住地移動の規定要因になっていること,換言すれば,行政によって提供される被災者専用の住居あるいは経済的補助制度によって,被災者の居住地にみられる空間的な展開が大きく左右されることが指摘できた。さらに,被災以前に同一居住地で生活していたにもかかわらず,被災後に世代間で分離し,それぞれ別住居で生活する現象が促進され,なおかつそれら被災者の島原市外への転出が顕著であることを指摘し,世帯内の紐帯の脆弱性が、被災を契機として、露呈した結果であると解釈した。
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