Research Abstract |
アルファ放射線被曝の経世代的影響,特に子供の発癌を調べるために,(1)トロトラスト被注入者の剖検例を用いて,精巣のアルファ線量評価を細胞レベルで行うこと,(2)被注入者の子供での発癌率を調査するための準備として症例と対照(あわせて1700人)における子供の人数・性別・生年月日とを調査し,来るべき本格的疫学研究のための基礎データベースを構築することを計画した. (1)線量評価:収集した精巣の組織を用いて,の平均線量と局所線量とを推定した.その結果,平均線量は,精巣で8.5mGy/yr,照射期間を10年,アルファ粒子の生物効果比(RBE)を15とすると,累積線量等量は約1.3Svになり,無視し得ない被曝量となった.一方,autoradiographyによる精巣の細胞レベルの線量推定は,わずか2例でのみ実施し得たにすぎなかったが,線量率で4.5mGy/yr,同上の条件での累積線量当量は約0.68Svとなり,臓器全体の平均線量とほぼ一致していた. (2)疫学データの収集と登録:トロトラスト患者群(255名,全例男性)および対照群(1630名,男:女=10:1)をコンピュータファイルに入力した.1992年12月31日の段階で患者は32名(13%),対照群は704名(43%)が生存していたことを確認している.また,患者本人の戸籍調査を利用して,患者の子供を,その生年月日,性別,本籍地などとともに登録した. 当初の計画では,次年度以降,本研究で作製したファイルをもとにトロトラスト被注入者および対照群に属する人々の子どもにおける癌の発生率・死亡率調査を行う予定であった.しかし,法務省は被注入者本人の戸籍調査までは認めるが,その子どもは関係がないので認めないという情報があり,本研究の成果を生かせない可能性が出てきた.現在,この情報を確認すると共に,この研究を継続する道を探っている.
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