1996 Fiscal Year Annual Research Report
雛鳥の大脳線条体におけるシナプス長期増強:刷り込みのメカニズム
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07680882
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松島 俊也 名古屋大学, 農学部, 助教授 (40190459)
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Keywords | 脳 / 記憶 / 行動 / インプリンティング / 刷り込み / 最初期遺伝子 / シナプス / 長期増強 |
Research Abstract |
(1)摂食行動の馴化と忌避学習に関する行動学的解析 小さな目立つビーズを提示すると、雛はこれを注視してついばみ行動を示す。この行動は生得的であり、生後の経験を必要としない。しかし、生後の経験はこの行動の選択性を著しく変え得る。ここでは、中立的な刺激による馴化と、苦み物質との連合により強化された一回性学習を吟味した。 馴化は中立的な刺激を繰り返し提示する事によって、その時間間隔(5分ないし1時間)に関わらず進行し、それはビーズの色を主たる記銘内容とするものであった。これに対し、強化学習は一回の提示により成立し、それはビーズの色・形・提示手続きなど、対象の多様な属性を記銘する事が判明した。今後は、これらの違いに着目し、それぞれの記憶形成に預かる脳内部位を、局所破壊などの手法により分離する必要がある。 (2)最初期遺伝子(c-fos)とシナプス長期増強の因果的関係に関する神経化学的解析 大脳線条体IMHV領域において、最初期遺伝子(c-fos)の発現と学習との間に有意な相関が見いだされている。他方、シナプス長期増強(long-term potentiation;LTP)は記憶形成の素過程と考えられている。本研究ではスライス標本において、c-fos発現とLTPが因果的に結びついているかどうか、を調べた。 LTPを引き起こす条件(5Hzx300pulses)は、c-fosの有意な発現を引き起こさなかった。逆に、自発的なc-fos発現の高い標本では、LTPが有意に起こりにくいことが判った。また、GABA抑制の拮抗剤(bicuculline)の投与によってLTPはNMDA型受容体の活性化を介して抑制された;しかし、c-fosの発現は逆に昂進した。 c-fos発現とLTPは共に、神経活動に依存する可塑的な変化であるが、両者は因果的に結びついていないことが結論された。むしろ、c-fos発現はLTPに対して抑制的に働くことが示唆された。この分子機構は未だ不明であるが、可塑性の消長(感受性期)との関連において今後検討すべき課題である。
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Research Products
(10 results)
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[Publications] Matsushima,T.and Aoki,K.: "Potentiation and depotentiation of fast excifatory synaptic transmission in telencephal one of the quail chick." Neuroscience Letters. 185. 179-182 (1995)
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[Publications] 松島俊也・青木 清: "発声パターンの構造を司る中枢機構:ウズラとジュウシマツから" 日本音響学会聴覚研究会資料. H-95-11. 1-9 (1995)
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[Publications] Yazaki,Y.,Matsushima,T.and Aoki,K.: "Testosterone acts on mesencephalic call region to transform calling patterns in the Japanese quail chick." IBRO World Congress of Neuroscience,Abstract. D8,5. 357- (1995)
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[Publications] Matsushima,T.and Aoki,K.: "Excitatory synaptic transmission in telencephalic IMHV shows a Hebbian potentiation only in early neonatal chicks : a slice patch experiment." Society for Neuroscience,Abstract. #759,14. 1932- (1995)
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[Publications] 松島俊也: "インプリンティング-脳の中に刷り込まれた「世界」" 遺伝(裳華房). 49. 14-20 (1995)
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[Publications] Takeuchi H.A.,Yazaki,Y.,Matsushima,T.,and Aoki,K: "Expression of Fos-like immunoreactiuity in the brain of quail chick emitting the isolation-induced distress calls." Neuroscience Letters. 220. 191-194 (1996)
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[Publications] Yazaki,Y.,Matsushima,T.and Aoki,K.: "Testosterone modulates calling behauior in Japanese quail chicks." Zoological Science. (in press).
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[Publications] Yazaki,Y.,Matsushima,T.and Aoki,K.: "Stimulation elicits the chick crowing with testosterone in Japanese quail chicks." Zoological Science. (in press).
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[Publications] 松島俊也: "刷り込み研究の現在" 日本比較内分泌学会ニュースレター. (in press).
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[Publications] 青木清編著(共著): "図解生物科学講座4「行動生物学」" 朝倉書店, 147 (1997)