1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07710255
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
吉田 浩 岡山大学, 文学部, 講師 (70250397)
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Keywords | 近代ロシア / 農民社会史 / 慣習法 |
Research Abstract |
本研究においては、ロシア農民慣習法のなかでも、農民の所有観念にかかわる問題をとりあげた。まずはじめに、農奴制廃止以前の慣習法の姿として、定説である勤労原理学説を確認した。その要旨は、「農民家族とは親族の私的団体ではなく、勤労経営団体であり、血縁的アルテリと名付けられる。財産は私的所有権を伴わず、家族全体に共有される。その財産が分割されるときも、系図における位置(尊属・卑属・直系・傍系)によらず、共同労働への参加の度合いによる」というものである。慣習法において勤労原理が意味をもつのは、家族の財産・所有関係のみではなく、広く所有権にかかわる。そこから、「労働が投下されているものに農民は特別の意義を認める。逆に言うと、労働が投下されていないもの、たとえば森林を盗伐しても、森林は水や空気と同じ自然の恵みであるから、罪とはならない。」この学説については、ロシア農民共同体で土地割替え慣行が維持されてきたことの論拠として、注目されてきた。ただし、農民の日常生活に即した法意識という視点からはまだ十分には検討されていない。そこで、まずこの学説そのものの検証のために、郷裁判所の判決録をひろく分析した。その結果、(1)家族内財産関係においては、勤労の重要性とならんで、血縁関係も重要であることおよび非血縁者が家族経営に血縁者と同等の権利をもって加わるには、契約関係の締結など勤労以外の要素も必要であること(2)森林盗伐にたいして郷裁判所は所有権侵犯であると判決することが一般的であること、があきらかになった。本研究により、勤労原理を否定するとみえる事例が明らかになった。同時代の慣習法研究者はこの事例にたいし、郷裁判所が民衆の法観念を反映していないからであると考えたが、本研究から私は、農奴解放後慣習法と一般法の相互作用によって慣習法が変容したという仮説をたてた。が、その論証についてはさらなる研究が必要である。
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