1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07710367
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Research Institution | The National Institute for Japanese Language |
Principal Investigator |
井上 優 国立国語研究所, 日本語教育センター第1研究室, 研究員 (30213177)
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Keywords | 疑問 / 否定 / 真偽疑問文 |
Research Abstract |
「Pでない」ことになっている文脈でPの真偽を問題にする(文脈と対立する仮説Pを文脈にわりこませてその真偽を問題にする)場合,日本語では「Pナイカ」の形式(誘導型真偽疑問文)が広く用いられる。 (1)甲:合計で6800円になります。[『甲は計算が間違っているとは思っていない』と推論される] 乙:え?ひょっとして,その計算間違っていませんか?(間違っているんじゃありませんか?) (2)[甲は乙に飲みに行こうと誘ったが,「忙しくて行けない」とことわられた] そう言わずに,ちょっと飲みに行きませんか? 中国語には,1)「P〓?」,2)「P不P?」(述語の肯定形と否定形を並べた形式)という二つのタイプの真偽疑問文がある。(1)のように「『聞き手はPとは思っていない』と推論される」という程度であれば、「P〓?」は使えないが,「P不P?」は使用可能である(是不是算錯了?)。タイ語もrw:,rw: plaw :など複数の疑問標識を持つが,そのうち「P rw: plaw :」(plaw :はもともと否定辞)は,中国語の「P不P」と同じく,(1)のような文脈で使用可能である(Khid Phid rw: plaw : ?,rw:は使えない)。中国語やタイ語に限らず,肯定否定の並列形式が真偽疑問文のひとつのタイプとして文法化されている言語では,それを「文脈と対立する仮説のわりこみ」のためにある程度使えることが予想される。 日本語以外の多くの言語では,(2)のように「行けない」と明言された文脈で「そう言わずに..」と聞き手を説得する場合は,「行きましょうよ」に相当する言い方をし,否定疑問文は使えない。朝鮮語の否定疑問文は,(1)のように「『聞き手はPとは思っていない』と推論される」場合を含め,ほとんどの場合,日本語と同じく誘導型真偽疑問文として使えるが,それでも,(2)のような場合は「そう言わずに,行きましょうよ」に相当する言い方をする。このことは次のような関係がなりたつことを示唆する。 (3)否定疑問文を誘導型真偽疑問文として使える可能性は,「Pである」可能性が否定されている強さに反比例する。(例えば,「Pでない」と明言された場合は,「『聞き手はPとは思っていない』と推論される」という場合よりもPの可能性が強く否定されている。)
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