Research Abstract |
目的:顎顔面形態と顎口腔機能とのあいだには何らかの関連性があることが知られている.中でも,咬合力により誘発される応力と,顔面形態とのあいだに大きな関連性が示されている.しかし,その機序については多くの因子が関与しており,未だ明確な結論に達していない.本研究では,異なる下顎平面角を有する症例の噛みしめ時における下顎骨および歯周組織に惹起される応力を有限要素法により解析し,下顎骨の形態と咬合力との関連性を生体力学的に検討することにある.方法:標準的な下顎の形態を有する症例として,下顎下縁平面角が標準的な角度,すなわち30.2度を示し,上顎骨の大きさ位置についても標準的な値を示すものを選択した.下顎下縁平面の開大を示す症例としては,標準値と比較して1s.d.を超える値,すなわち40.3度を有するものを選択した.また,咬合状態については,上下顎ともに第二大臼歯まで有し,臼歯関係はangle class Iを示し,over-bite,over-jetはともに標準的であった.なお,性別は女性であり,年齢はそれぞれ20歳であり咬合および顎関節に異常は認められなかった.この2症例の側面位頭部X線規格写真をトレースし,これをもとに下顎窩を含む側頭骨の一部,下顎骨および口蓋を含む上顎骨の一部の2次元有限要素モデルを作成した.なお歯は,上下顎とも側切歯を除く中切歯から第二大臼歯までをモデル化し,歯根膜,皮質骨,顎関節円盤および顎関節腔は標準的な値とした.加重条件は咬筋,側頭筋の筋電図より比率を求めその合力が過去の報告を参考に500Nとなるように設定した.荷重は側面位頭部X線規格写真を参考に,下顎角部,筋突起部よりそれぞれ30度,15度方向に負荷した.また,側頭骨上部,上顎骨上部を完全拘束した.要素数は3620であった.結果:標準的な下顎骨のモデルでは,根尖部歯槽骨,根分岐部,下顎角前方部,および関節突起頚部の前方に圧縮応力を認めた.歯根膜では歯槽骨骨縁から根尖側約1/3および根分岐部に圧縮傾向が認められ,この傾向は遠心側ほど大きくなる傾向を示した.顎関節頭部では後方で圧縮応力が,中央から前方部にかけては引っ張り応力が示された.下顎下縁平面の開大を示す症例では同様の傾向を示したが,歯においては遠心側と近心側との差が大きく,顎関節部では前方部での圧縮応力が大きくなる傾向を示した.このように,下顎下縁平面の開大を示す症例では遠心側の歯および顎関節前方部での応力が標準的な症例よりも大きく,同部位には感覚受容器が存在し,咬合力が調節され,ひいては顎顔面の骨形成に差を引き起こす1原因となりうることが示唆された.
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