1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07780171
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
遠藤 敏明 秋田大学, 教育学部, 助教授 (70203669)
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Keywords | スロイド / 教育計画 / 教育理念 / スウェーデン / 美術教育 / 工作・工芸 / 美的育成 / 実際的能力 |
Research Abstract |
本研究は、スロイド教育学のカテゴリー分析を利用することで、スウェーデンのスロイド教育理念と、日本の工作・工芸教育理念の比較検討を行なうことから始めた。その結果、スウェーデンにおける「スロイド」という概念が、一つの行為(プロセス)を体系化したものであるのに対して、日本の「工芸」の場合は、より静的な状態、つまり作品等の「結果」を中心としていることが多いことに着目できた。スウェーデンのプロセス、日本の結果(作品)という大きな差異は、そのまま、教育の方向性に影響を与えていると考えられる。 日本の場合、工芸は、美術教育あるいは芸術的領域の一つとして理解され、そこでは工芸作品という形でその存在を認められてきた。その一方で、美術教育のなかでは、創造性の育成という観点から、制作のプロセスの重視が叫ばれてきたが、そのプロセスが最も明現する工作・工芸の領域との結びつきは検討されてこなかった。その理由は、創造性という観点が目に見えないことから、感性的な問題と同列に扱われたためである。近年の創造性研究者によって、その形成プロセスが明かにされつつあるなかで、工作教育の持つ実際的なプロセスは、今後の教育のなかでより重要な役割を果たすと考えられる。感覚教育を重視する一方で、実践・実際的能力の育成という問題を比較的軽視している美術教育は、創造性の育成において、基礎的なよりどころを失なうこととなり、現実には子どもの表現という問題にまで、その弊害が生じていると考えられる。そのような状況のなかで、工作教育は、子どもが生活技術を修得する(生活する)ということと同時に、美的育成や実践的能力の育成を総合的かつ円滑に進める教科内容を構築できるのではないかと思われる。 本研究の示唆することは、図画工作・美術科の構造を再構築する必要性が存在するということである。これまでのアカデミズム型、あるいは作品至上主義型の教科構成から、基礎・経験からつみあげる、より発達重視型の教科構成を検討する必要性が理解される。そのためには、特に、生活技術と生産技術との関連をはっきりとさせ、「工作」という概念を、これまでの美術教育の範疇を越えて児童・生徒から社会人の生活と密着したたところに据えることを検討する必要がある。 本研究は、日本の工作・工芸教育が果たすべき役割から、「工作」という概念そのものを再定義することを試みた結果、「工作教育学会」の設立準備へと進めることができた。
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