Research Abstract |
当研究は,ドイツ語における移動動詞が持つ基本的意味構造が,どのような他の概念構造と体系的に関連しているかを実証的に明らかにすることを目標とした.従来、ドイツ語の移動動詞は,意味場の理論,ヴァレンツ理論で扱われてきたが,そこでは,細分化した意味・統語特性しか問題とされてこなかった.そこで,J.Schroderに挙げられた移動動詞の内,雅語を除き185の動詞の特徴を,1)意味役割とアスペクトの観点に考慮しつつ概念構造レベルで分析し,2)それぞれが本来持つ概念構造との関係をメタファーとして関係づけ,3)構文的特徴に関する統語的交替現象をあわせて解明した。D.Perlmutterに始まる非対格仮説との観点から,ドイツ語の移動動詞を分析すると,ドイツ語の移動動詞は、完了の助動詞の選択がseinであり,非人称受動が成立するという非対格動詞の特徴を示すにもかかわらず,非能格動詞であることが判明した.また,方向規定詞を付加してドイツ語では生産的に移動動詞が作られるが,内在的移動動詞では完了の助動詞選択がseinであり,移動様態動詞,移動物/移動経路の形態に設する動詞,音の伝播に関する動詞は、助動詞選択がhabenである点は,ドイツ語固有の現象である.これらの動詞は,方向規定詞を付加すると、一様に移動動詞化し,完了の助動詞seinへと変化する.この分析によって,ドイツ語では、助動詞選択を基準に「内在的移動動詞」を定義することが可能で,英語では「移動様態動詞」とされる動詞も,ドイツ語ではかなり内在的移動動詞として扱われていることが実証された.この事実は,影山太郎の日英移動動詞の分析結果と大筋において一致し,言語の普遍的語彙構造の存在を立証する手がかりとなる.ただし,ドイツ語固有の現象と考えられる再帰化による移動動詞表現は,動詞の接頭語の研究と共に,今回の研究では十分に探求できなかったテーマであり,今後の課題となる.
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