1996 Fiscal Year Annual Research Report
近代中国における伝染病の流行と人工動態及び社会変容に関する研究
Project/Area Number |
07803009
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
飯島 渉 横浜国立大学, 経済学部, 助教授 (70221744)
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Keywords | 近代中国 / 伝染病 / 国際連盟 / 死亡率 / 検疫 / 極東熱帯病会議 |
Research Abstract |
近代中国における伝染病の流行状況を把握するため、以下の資料を収集・整理した。(1)国際連盟の調査報告、(2)外務省外交資料館所蔵『各国ニ於ける伝染病報告雑慕』、(3)旧制帝国大学医学部(北海道大学、東京大学、九州大学等)所蔵調査報告書。以上の資料の分析の結果、近代中国においては、その人口規模が巨大なこともあり、伝染病は各地で流行していたが、人口動態に決定的な影響を与えるものではなかったことが明らかになった。但し、伝染病流行に対する社会政策が、1930年代以後を中心に積極的に行われ、それが、近代中国の国家形成(State building)の契機となったことは明らかであり、具体的には検疫権回収運動となって、国際関係にまで影響を及ぼした。又、各都市別の出生率、死亡率の統計も整理したが、都市の場合、農村に比べて人口の社会変動が大きく、明確な結論を得るには至っていない。しかし、欧米や日本と比較して、都市の死亡率が相対的に近いことは確かである。これは、栄養水準や衛生条件が農村よりも恵まれていたことによると考えられる。この点は、近代中国の人工動態を考えるうえで特徴的である。他方、検疫権回収問題をめぐる資料も整理した。検疫権回収問題が表面化したのは、20世紀初頭であるが、1920年代半ばから、回収運動が本格化し、1930年の日本との通商条約改訂によって、中国(国民政府)は検疫権を回収した。この過程で、中国は国際連盟の積極的な支持のもとで、海港検疫を実施し、国際関係に占める地位を向上させていった。20世紀初頭以来の国際伝染病会議や極東熱帯病会議への参加のあり方も含め、検疫をめぐる国際関係は重要な問題であり、今後いっそうの検討が必要な問題である。
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