Research Abstract |
現代においてうつ病病像に変容が認められることは,研究者間での共通認識となっている.我々は,主に,その一型である逃避型抑うつの解明のために,「生体が持つリズム性と社会組織が持つリズムパターンとの相互作用が関係している」との仮説のもとに,勤務者の欠勤様態に着目して,実証的に都内の大企業3社のカルテの遡行的研究を実施した. [目的]うつ病者でリズム性が強い群と対照群との間の臨床的特徴の差を調査する. [仮説]リズム性群は,対照群より若年で,早朝の起床困難や過眠傾向が強い. [方法]DSM-IVでうつ病と診断された28名を対象として,リズム性群と対照群とに分けた.すなわち,リズム性群を,休業パターンの視点から,月または火曜日に開始された休業エピソードの回数・割合によって定義し,木または金曜日に開始されたものを週末型とし,どちらでもないものを中間型とした.休業エピソードのデータと併せて,基本データとして,性別,年齢、学歴,浪人・留年歴,婚姻状況,入社後の経験年数,職種,地位を,臨床データとして,症状,既往症,発病後の経過年数,家族歴などを収集した. [結果]リズム性型8名,週末型5名,中間型15名となった.これに対して,カテゴリー型データの分布判定をX^2検定で,数値型データをGLMプロシジャによる多変量解析の後のLSD検定で,統計分析を行った. X^2検定では3群間に有意差は認められなかった.GLMプロシジャーLSD検定では,リズム性型,週末型,中間型という型分類が,分析された数値型データの分布に有意な寄与を果たしているものはなく,群間比較の有意差もほとんどなかった.唯一,休業日頻度に対しては,型分類が7%で相関する傾向を示し,群間比較で中間型がリズム性型より有意水準5%で休業日頻度が大きかった. [考察]予測された解析結果が得られなかったが,これは対象数が限られていることとともに,欠勤の実態の正確な把握に難点があったためと推察される.すなわち,企業から出勤簿に照らしての欠勤日のデータの提供を仰いだが,診察において患者から欠勤したと報告された日も,出勤簿の上では出勤扱いになっていることが判明した.したがって,今後の継続的研究においては、前向的調査によって患者からの直接的な報告に基づいたデータ収集が必要である.
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