1996 Fiscal Year Annual Research Report
出土色漆における退色現象の把握とその保存に関する基礎的研究
Project/Area Number |
07831017
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Section | 時限 |
Research Institution | (財)元興寺文化財研究所 |
Principal Investigator |
北野 信彦 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90167370)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
肥塚 隆保 奈良国立文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 室長 (10099955)
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Keywords | 鉄屑ベンガラ / パイプ型ベンガラ / 硝石(発煙硝酸) / 復元製作実験 / 銀蒔絵 / 黒色の変・退色 / アルカリ性塩化物 / 色漆手板試料 |
Research Abstract |
本年度は、(1)昨年度に引き続き色漆に使用される各種人造顔料の復元製作実験および個々の試料の評価、(2)各種蒔絵材料(金・銀・錫粉)に関する基礎資料の収集および実際の出土漆器資料における蒔絵材料の劣化状態の把握、(3)実際の出土漆器資料における色漆の劣化・退色現象の把握、(4)実験計画に沿う各種色漆手板試料(標準サンプル)の退色・劣化実験の実施、の4項目の作業を行った。その結果、以下の知見を得た。(1)まず赤色漆に使用される人造朱は水銀と硫黄の合成化合物であるが、極めて大量の硫黄を使用するため、黒色変化の原因ともなりうる遊離硫黄が残留する。これを除去させて顔料の安定化を計るためには水簸工程に硝石(発煙硝酸)を用いる。また人造ベンガラには、鉄屑ベンガラ(鉄屑を粉砕して水に漬けて鉄錆である非晶質の水酸化鉄(FeOOH)を作成する。これを650℃前後の密閉系の還元状態で加熱(アルカリ性塩化物であるカリウムもしくはナトリウムを添加)して作成)や、天然泥鉄鉱や温泉沈殿水酸化鉄を加熱して作成するパイプ型ベンガラ(パイプ型形状は鉄バクテリアの殻状形状による)などが確認され、緑礬(ロ-ハ)を加熱して作成する技術に先行する。(2)各種蒔絵材料の内、銀蒔絵は土中の硫黄(S)や塩素(Cl)成分による黒色の変・退色(硫化銀・塩化銀への化学変化による)を起こし易い。なお銀蒔絵漆器資料の地塗り部分はいずれもベンガラ漆であり、朱漆のものはわずか数例のみであった。また金蒔絵材料である金粉・箔には、若干の塩素成分が残留するが、これは金精練技術である塩金の影響によろう。(3)実際の出土漆器資料の調査には、汐留遺跡出土一括漆器資料、3.680点、と永田町二丁目遺跡出土漆器資料、1.598点(いずれも近世資料)の合計5.278点を用い、その材質分析およびPEG含浸実験はすべて終了した。現在調査結果の集計作業中である。(4)各種色漆手板試料の退色・劣化実験も現在進行中である。
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[Publications] 北野信彦・肥塚隆保: "近世におけるベンガラの製法に関する復元的実験" 文化財保存修復学会誌. 40. 35-47 (1996)
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[Publications] 北野信彦: "近世出土漆器資料の保存処理に関する問題点・III-文献史料からみた赤色系漆に使用する朱の製法について-" 文化財保存修復学会誌. 41. (1997)
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[Publications] 北野信彦: "近世町方社会における生活什器としての漆器資料" 愛知大学綜合郷土研究所紀要. 41. 145-160 (1996)
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[Publications] 北野信彦・肥塚隆保: "製法記録からみた人造の朱・ベンガラ" 保存科学研究集会要旨集. 3. 68-71 (1997)