1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07836015
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Research Institution | National Museum of Nature and Science,Tokyo |
Principal Investigator |
山田 格 国立科学博物館, 動物研究部, 室長 (70125681)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 秀紀 国立科学博物館, 動物研究部, 研究官 (30249908)
木田 雅彦 岩手医科大学, 医学部, 助教授 (40186276)
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Keywords | 鯨類(Cetacea) / ヒゲクジラ亜目(Mysticeti) / 腹側嚢(Cavum ventorale) / 体幹筋(Panniculus carnosus) / 表情筋(Fecial muscle) / 系統進化(Phylogeny) |
Research Abstract |
ナガスクジラ科鯨類に特徴的な摂餌様式に適応した腹側嚢(Cavum ventrale)は咽頭部から腹部までの体壁と皮膚の間に広がる。この腹側嚢は、摂餌時には餌の漉し取りのため表層の筋の括約作用によってその海水を押し出す。本研究ではミンククジラ胎児(頭尾長 40cm-100cm)の腹側嚢括約筋の構成の発生学的変化を観察し、陸棲哺乳類の所見と比較してナガスクジラ科の特質を考察した。 腹側嚢の口腔底部分は、顎舌骨筋が主要な部分を構成するが、顔面神経支配の表情筋のうち陸棲哺乳類の広頚筋に相当する部分が二層に分化して表層を被う。尾側の胸・腹部では胸筋神経支配の皮幹筋が腹側嚢の位置に一致して広がる。 胎齢がすすむにしたがい広頚筋は吻側に、皮幹筋は尾側および背側に拡大する。哺乳類の皮幹筋は、一般に腋窩の背側と腹側の二系列が認められる。この二系列の境界部分に形成される縫線が腋窩から尾方へのびるのが鯨類の特徴であるが、ミンクにもこの縫線が認められた。鯨類の皮幹筋はこの縫線を軸として羽状に発達し、体幹と皮膚の関係を制御して体と水の間の流体力学的調節をおこなっている可能性がある。この縫線の所見から考えると、ミンククジラの皮幹筋も遊泳時の流体力学的な機能をも果たしていると考えられるが、ハクジラに比して特に体幹尾側での発達が非常によく腹側嚢の位置によく一致していることから腹側嚢の括約筋としても機能しているものと考えられる。 以上の所見をまとめると、ミンククジラでは哺乳類一般で口腔底を構成する顎舌骨筋だけでなく、表情筋の一部である広頚筋と、体幹の皮筋である皮幹筋が摂餌のための構造を構成していることが確認された。また皮幹筋は、皮幹筋の鯨類一般の機能である遊泳時の流体力学的な調節にも機能していることが推測される。
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