1995 Fiscal Year Annual Research Report
水の安定同位体比を用いた植物の水利用を水循環に関する研究
Project/Area Number |
07854048
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉本 敦子 京都大学, 生態学研究センター, 助教授 (50235892)
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Keywords | 植物 / 水循環 / 安定同位体比 / 栄養塩 |
Research Abstract |
水の酸素、水素同位体比を測定するための前処理用真空ライン、および植物中の水を抽出するラインを作成し、測定法を確立した。水の酸素同位体比は±0.2‰、水素同位体比は±2‰以内の誤差で測定が可能となった。これらの水の同位体比を利用して植物の水利用を明らかにするため、貴重な湿地生態系である深泥池(京都市)において調査を行った。植物がどの深さの水を利用しているかを明らかにするため、降水および深度別の土壌水を採取し、同位体比を測定してヨシ、ミツガシワ、ススキの植物中の水の同位体比と比較した。 まず、深泥池浮島上の水(表面水)は降水の同位体比の変動と表面での蒸発の影響で大きく変動したが、30cm以深の土壌水と浮島下の水層の同位体比はほとんど変動がなかった。また、土壌水の同位体比の鉛直プロファイルは植生ごとに違っており、これらのことは浮島中では水の動きは極めて遅いこと、植生あるいは微地形の違いでその動きの方向が違っていることを示していると考えられる。また、ススキは表面付近の水、ミツガシワは30cm深付近の水、ヨシ帯のヨシはさらに深い水を吸い上げていることが植物中の水の酸素同位体比から示唆された。これらの結果は植物の根の分布に対応しており、降水中の栄養塩利用型、降水と表面土壌中の分解生成物の栄養塩利用型、浮島下の泥炭中の分解生成物の栄養塩利用型にそれぞれ分けることができる。土壌水の同位体比からわかるように浮島中の水の動きは極めて遅い。従って、深泥池の様な貧栄養の湿地では植物は栄養塩を得るために根を広げる必要があり、植物はそれぞれ特徴的に根を伸長させ、異なる深度の水と栄養塩を利用していると言える。本研究により、植物中の水の同位体比から植物の水および栄養塩の利用を明らかにする方法がほぼ確立し、今後、他の生態系にも応用できる。
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