2007 Fiscal Year Annual Research Report
縁起・霊験譚の生成と作品制作の実態的研究-生活の中の信仰と生業の解明を通して-
Project/Area Number |
07J00948
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
日沖 敦子 Nanzan University, 人文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 総持寺縁起 / 藤原山蔭 / 奈良絵本 / 絵巻 / 新長谷寺縁起 / 当麻曼荼羅 / 中将姫 / 曼陀羅寺 |
Research Abstract |
本研究は、説話やお伽草子が生成される場としての寺院と、それに関わる信仰者の実態に注目し、室町期から江戸前期を中心とした寺院ネットワークと文芸活動の関係についての解明を目的とする。 今年度は、まず『中世文学』52号掲載論文において、大阪府茨木市総持寺および常称寺が所蔵する「総持寺縁起絵巻」の伝本調査と内容的特徴について報告した。さらに、『古代中世文学論考』第19集掲載論文では、「総持寺縁起絵巻」の制作状況について論じた。これまで殆ど検証がなされてこなかった、常称寺所蔵絵巻を中心に、付属している書簡の解読および他資料との筆跡の確認を通して、絵巻の詞書が、芭蕉が書の手ほどきを受けたことで知られる北向雲竹によるものであること、書を通じての人的交流のなかで、常称寺所蔵絵巻の制作が企てられた可能性が考えられること、さらに、元禄期、常称寺の寺院再興の機運の中で制作された絵巻であると考えられることを指摘した。「総持寺縁起絵巻」を検討する際、比較検討した天理大学附属天理図書館蔵「新長谷寺縁起」は、藤原山蔭ゆかりの十一面観音像を安置する新長谷寺(現在、真如堂内にある)の由緒を記したもので、『人間文化研究』7号に伝本紹介と併せて翻刻を掲載した。また、藤原山蔭に関する諸縁起の調査と並行して、当麻曼荼羅に関する調査を進めている。10月に行われた伝承文学研究会大会では、愛知県江南市前飛保にある日輪山曼陀羅寺(西山浄土宗)の縁起について論じた。曼陀羅寺は、地域の風土や周辺の環境が、縁起や語りのなかに組み込まれていく実態を窺わせる古寺としても興味深い。報告では、伝本整理を踏まえ、「曼陀羅寺縁起」が、禅林寺所蔵の曼荼羅(正安本)の由来譚と近似することとその背景について検討し、縁起が在地の風土に根づきながら、生活空間のなかにいかに融和していたかについて述べた。このほか、8月に開催された西尾市岩瀬文庫所蔵の奈良絵本・絵巻展「絵ものがたりファンタジア」の企画に参加し、展示図録・解題図録の担当執筆を行った。 来年度に向けて、現在調査を進めているのは、近世前期に当麻曼荼羅を携えて全国を行脚した一僧侶の足跡と、彼が縫いあげた髪縫仏、及び、影響を受け制作された繍仏の調査である。活動の実態を調査することにより、近世前期の庶民の浄土信仰と勧進活動の実態を明らかにすることを目指している。これらの調査報告として、来年度はより文化史的な位置から中将姫伝承の一端を論じていく。
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