2007 Fiscal Year Annual Research Report
ジル・ドゥルーズの動物的他者論-現代哲学の「生態学的パラダイム」とその政治的帰趨
Project/Area Number |
07J06357
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千葉 雅也 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | ドゥルーズ / 動物 / 他者論 / スピノザ / ライプニッツ / 生態学 |
Research Abstract |
本年度の中心課題は、ドゥルーズにおける「動物的他者論」の核心を明らかにすることであり、そのためドゥルーズの動物論とスピノザ/ライプニッツ解釈との関係を再検討した。本年度はまず予備考察として、ドゥルーズめ哲学・美学の様々な文脈内に散在するモナドロジー的観点を縫合する作業を行った。この成果は京都大学で行われたフォーラムで一部公表され(発表1)、表象文化論学会誌『表象』第2号に論文として投稿、掲載が決定した(論文1)。以上の結果、ドゥルーズ哲学にとって特徴的なテーマ系、「無入島」や「マゾヒズム」、フランシス・ベーコンの画業における「隔離され歪められた身体」等はいずれも、モナド的に孤立した諸個体の多元性視点によって、世界・歴史の一元性を批判的に解体する、存在論的な政治性を含意していることが解明された。 こうした多元論におけるコミュニケーションの可能性を再考するため、本年度後半は改めてドゥルーズのスピノザ/ライプニッツ解釈を比較した。一方でドゥルーズによれば、スピノザの「倫理学」とユクスキュルの「生態学」は、各個体がアプリオリに「なすべき二と」を規定するのではなく、他者との諸関係において「なしうること」を発見していく試みであるという点において一致する。そしてスピノザにおいでは、自己の活動性を高め、「喜び」を増すような能動的他者関係をより広く構築していくことが目的とされる。ここで重要なのは、あくまでも部分的でしかない関係を「より広く」構築することであって、決して最終的に「全体化」されるような共同体=大文字の自然という「理念」が本質なのではない。こうしたスピノザ主義の〈全体主義化〉に抗する契機として、ドゥルーズのライプニッツ解釈を再評価した。発表2では、そのため『襞-ライプニッツとバロック』(1988)に見出される「動物的モナドロジー」という論点に注目し、ドゥルーズ=ライプニッツにおいては、諸関係を全体化せずに〈連続化〉する独特の自然哲学が問われていることが明らかにされた。すなわち、存在者(モナド)はその無意識においてつねにすでに他者との受動的接触状態にあり、このことが、一元的な公共空間におけるコミュニケーションの「可能性の条件」よりも先行する、多元的な私的空間から公共空間を構築していく「可能な最小限のコミュニケーション」の「発生的条件」をなす。以上にもとづき、ドゥルーズのスピノザ/ライプニッツ解釈における動物の問題を総合的に扱った論文2を日仏哲学会に提出、学会誌への掲載が決定した。
|