Research Abstract |
ジュウシマツのような鳴禽類は,晩成性の発達様式を持つため,未発達・未分化な状態で孵化し,その後性成熟に達するまでの短期間で急速な成長を遂げる.このため,身体形質や行動形質への初期発達コンディションの影響は著しい.特に鳴禽類オスは,求愛歌を発声学習によって発達初期に獲得し,成熟後の歌形質は繁殖成功に大きく影響することから,歌獲得に関わる固体発生要因に対して性淘汰圧が作用してきたと考えられる.本年度の研究においては次の二点に着目して研究を行った.(1)これまでの研究によって,ジュウシマツ母鳥の卵への栄養投資は産卵順に応じて勾配することが分かっている(母性効果)。そこで,このような母性効果が,子の歌行動獲得へ及ぼす影響を検討した.(2)ジュウシマツのオス雛は,主に父鳥の歌をモデルに歌を学習するが,他の成熟オスもモデルにすることがあることも分かっている.そこで,雛がどのような個体の歌をモデルとするかということと,モデルの歌の質には関連があるか検討した.これらの検討によって,次のような知見が得られた. (1)ジュウシマツ雛は,産卵順が早い卵に由来する個体ほどより複雑な歌を学習していることが分かり,このことは,卵に対する母鳥の栄養投資が,初期発達期の歌学習に関わる神経発達に寄与していることを示唆する. (2)ジュウシマツ雛は,父親の歌の質が低い時には,他の成熟オスからも歌を学習しようとする傾向を示した.このことは,雛の歌学習がモデルとなる成熟オスの歌の「質」に基づいており,性淘汰圧によって「質」のより高い歌を学習するような行動戦略が進化してきたのではないかと,考えられる.
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