2007 Fiscal Year Annual Research Report
「西欧」と「東欧」の境界線の複層性:スロヴァキア国境地域における社会の動態
Project/Area Number |
07J08945
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神原 ゆうこ (山根 ゆうこ) The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2) (50611068)
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Keywords | 文化人類学 / 民族誌 / スロヴァキア / 国境 / 地域統合 / 社会主義と資本主義 / 労働移動 / 拡大EU |
Research Abstract |
本研究の目的は、かつての「東欧」と「西欧」の国壕線をめぐる「流動性」と「定住性」を活用する個人の戦略を通して、1989年以降の国境地域の生活の変容を具体的に捉え、移動者と地域の社会変容を総合的に描く民族誌を記述することである。本年度はスロヴァキア共和国にて文献収集および国境地域村落でのフィールドワークを行い、帰国後は訓査データの分析に重点をおいて研究を進めた。主な研究上の成果は以下の通りである。 1.国境地域における移動に関する考察:労働移動に限らず、EUの援助の下、都市や企業の連携・交流も活発に行われている。これらの移動を通して、村のなかの移動しない人々を含めた村落の変容について調査を行った。 2.国境地域村落における資本主義的思考の受容に関する考察:資本主義という考え方は、村の多くの人々にとっては外来の考え方である。ライフヒストリーの聞き取りや89年以降の村の出来事に関する語りから、彼/女らの生活に即した「資本主義」の受容について理解を試みた。 3.これらの背景としてのスロヴァキア全体の経済状況の動向、EU拡大の影響の把握 4.現在との比較対象としての「社会主義時代」についての考察:社会主義時代の事象を分析するためには、社会主義時代、およびその後の研究をとりまくイデオロギーのあり方を理解する必要があり、スロヴァキアの文化人類学と攻治との関係を歴史的に把握し、社会主義時代の事象を検討する一助とした。 本研究は、社会主義から資本主義への社会の変容を、それを受けいれる人々の視点に注目して分析を行う点に意義がある。地域統合という大きな試みの分析のみならず、新しいシステムや思想(ここでは資本主義や民主主義)を理解、受容するプロセスの分析は、ヨーロッパ以外の多くの地域においても必要とされるテーマである。来年度は、さらに定住する側における89年以降の「民主主義」の受容にも留意して研究を進めたい。
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