2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07J08981
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 温 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員DC2
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Keywords | 近世文学 / 近世思想 / 幕末期の文芸 / 幕末期の政治運動 / 大橋訥庵 / 大橋淡雅 |
Research Abstract |
2007年度の研究においては、研究主題「訥庵と文事-菊池家のもたらした文化的環境とその意義」に則り、大橋訥庵(文化13年<1816>〜文久2年<1862>)の養父である大橋淡雅とその周辺の事跡を中心に検討し、主に雑誌論文「富商大橋淡雅の文事と時局」(『近世文藝』86号)を通して、訥庵の勤王活動と文事の前提がその養父の代に既に存在していた可能性を提示することができた。拙稿では商家としての家業の傍ら書家および書画収集家・鑑定家としても知られた淡雅の文人としての姿に深く分け入ることによって、この一見位相の異なる商家と儒者の結びつきには文芸活動とその周囲の結社の存在が大きく関わっていたことを示した。具体的には、淡雅は本業の傍ら書画収集や鑑定を趣味とし、当時の江戸の文芸界を牽引した渡辺畢山(田原藩家老・画家)や立原杏所(水戸藩士)、安西雲煙(書画商・書画鑑定家)といった人々と書画鑑定サークルを結成して名声を得、更には渡辺畢山が蛮社の獄で逮捕されるとそのサークルの単位で畢山救出活動を展開するという時局的な行動にも踏み込んでいたことが明らかとなった。このことから淡雅らの天保期(1830〜43年頃)の文人サークルが幕末期の政治的結社の初期的な姿であった可能性を示し、これがその後勤王活動に適進する一方で文人としても活躍することとなる訥庵の足跡の原点であった可能性を提示した。こうした研究の傍ら、訥庵や淡雅に関する資料整理のために各地の図書館ならびに淡雅の後喬にあたる宇都宮市菊池家において調査を行っており、その成果は上記論文にも反映されている。以上のような進展を踏まえ、今後は訥庵の文芸活動と政治活動の連関を明らかにしつつ多面的な訥庵像を提示することを目的として研究を進めていきたい。
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