2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07J09360
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 大輔 Kyoto University, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 金属錯体 / 多孔性物質 / 光化学 / 結晶構造 |
Research Abstract |
多孔性金属錯体は遷移金属と有機架橋配位子によって形成されるフレームワーク内に細孔を有する結晶性の物質の総称であり、結晶性に由来する非常に均一な細孔を有し、高い空隙率と分子性材料特有の設計性、構造柔軟性を併せ持っている。多孔性金属錯体の分子吸着能に関する研究が世界的に広く行われ始めたのはわずか10年前であり、その主流は合成した多孔性金属錯体の単結晶構造解析と、剛直なフレームワークへの分子吸着能に関するものであった。一方で、多孔性金属錯体の持つ分子性材料特有のユニークな特徴を利用して、従来の多孔性物質では実現困難な機能を探索していく研究はいまだ十分に行われていない。 従来の多孔性金属錯体の研究において着目されてこなかった相互作用として、本特別研究員は光のような外場存在下で、ホスト-ゲスト間に電荷移動相互作用が発現する系の構築を着想した。光電子移動やエネルギー移動など光に誘起される相互作用は、基底状態における分子間相互作用に比べてより強く系の電子状態を変換しうる。 特に、吸着されたゲストが多孔性金属錯体のナノ細孔中で凝集・配列することにより、ホストーゲストによるナノ複合体が形成されるため、新たな光応答物質の合成手法となることが期待できる。本特別研究員はアントラセン誘導体と亜鉛イオンを用いて多孔性金属錯体を合成し、さらにホスト骨格のアントラセンがゲスト分子(アニリン誘導体)と光照射下で電荷移動相互作用を示すことを見出した。このようなナノ構造体中での光誘起の電荷移動相互作用は、光導電性材料や太陽電池などのデバイスの開発に新たな知見を与えうるものである。 本特別研究員はリン光を示す4,4'-benzophenonedicarboxylate(bpndc)を用い、架橋配位子とCd2+などの反磁性金属イオンによって、蛍光及びリン光を示す多孔性金属錯体の合成を行った。この錯体では、ある一定の圧力をかけないと構造変化が起きないために、一定の圧力の閾値を超えないと吸着が開始しないゲート効果が観測された。この錯体を用い、これまでまったく説明がされてこなかった、ゲート効果に由来する非連続的な吸着等温線の発現機構を、新しい速度モデルを提案することで初めて解明した。特に、吸着現象において構造変化に由来する中間状態を仮定するというアイディアによって、実験結果と完全に一致するモデルを提案することに成功した。さらに詳細な解析から、この中間状態の生成には結晶表面での吸着質の凝集が重要な役割を担っていることが示唆された。 以上の結果は多孔性金属錯体の化学を発展させる成果であるといえる。今後はさらに精密な分子設計を行い光応答空間の構築を実現していきたい。
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