2008 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡条件下における多成分モデル生体膜の大変形ダイナミクス
Project/Area Number |
07J12947
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
柳澤 実穂 Ochanomizu University, 大学院・人間文化創成科学研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | 非平衡物理学 / ソフトマター物理学 / 生理物理学 / モデル生体膜 / ベシクル / 膜変形 / 国際研究者交流 / フランス |
Research Abstract |
我々は、生体膜の示す膜変形現象を物理的な観点から明らかにするために、脂質のみからなるモデル生体膜ベシクル(以下、ベシクル)を用いた研究を行った。均一なベシクルは、面積と体積の比で定義される余剰面積と2分子膜の外膜と内幕の面積差よって多様な形状を示す。一方、飽和リン脂質、不飽和リン脂質、コレステロールからなる3成分ベシクルは、転移点以下で液体秩序相と液体無秩序相に2相分離し、生体膜における脂質ラフトに似たドメイン構造を形成する。そこで、膜変形に重要であると考えられるこの2つの現象を競合させ、より実際の生体膜に近い条件下での膜変形を蛍光顕微鏡観察した。高温で均一な3成分ベシクルの膜外に糖によって浸透圧差を加え、それにより現れたそれぞれのベシクル形状で温度を下げて相分離させた。その結果、相分離を境に均一系とは全く異なる膜変形が観察された。特に筒状ベシクルでは、相分離と共にベシクルが変形し、やがて周期的ドメインパターンが現れた。ドメイン形状は、相分離後に現れる液体秩序相の面積分率に依存し、50%を境に、赤血球型ベシクルの両側に形成された円形から帯状へと転移した。これは最も支配的となるドメイン界面をなるべく小さくするために起こったと自由エネルギー解析から説明できた。またドメインの周期性は、ベシクルの形状に依存した相の分配とそれに伴う膜変形が同時に起こることで、速度論的に決定されることを見出した。こうした反応速度の異なる現象が競合することで、生体膜は複雑な変形を実現していることを示唆した。さらにこの研究は、非平衡条件下にある生体膜を物理的に記述する上でも大きな一歩となったと言える。
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