Research Abstract |
近年,全世界で複数民族が混在している地域での紛争が続発しているが,本研究では,家族ないし村落というミクロ的視野から,4民族が混住するリトアニアを例に採り,ミクロの意思決定が社会的にどう調和されているのかを,経済学的分析・歴史学的分析・家族社会学的分析を援用して,考察することを目的とする。また,本研究の調査手法上の特徴としては,個別農家でのミクロ的ライフ・ストーリー調査が挙げられる。すなわち,家系図を作成し,家族関係を確定し,そこから他の民族との関連を考察しようとするものである。平成8年度においては,リトアニアにおけるポーランド部落とタタール人部落ならびにロシア人部落の調査を行い,次のような知見が得られた。 1.これら部落を区別する特徴は,圧倒的に宗教であった。宗教が婚姻関係成立の際の促進要因ならびに障害要因になっていた。言語については,バイリンガルの社会であり,大きな障壁とはなっていない。 2.しかしながら,婚姻において宗教が絶対的な条件でありえたのは,1960年ころまでであり,それ以降は,異なる宗教間の『混血』化がすすんだ。ただし,現在でも過半数の結婚は同一宗教内での婚姻関係である。 3.これら部落間の所得格差は極めて大きかった,その原因が宗教にあるとの結論は現段階では得られていない。 4.行政サイドは,低所得のポーランド人部落や絶対的な少数民族であるタタール人部落に対して,財政的に保護を行っている。とりわけ,教育面での財政負担は大なるものがあり,この教育面での(それは必然的に言語面での)少数民族の保護と社会全体の協調をもたらしている。反面,教育補助金の削減は,必然的に社会的コンフリクトを発生させる。特に,高等教育への進学率の格差は,将来の所得格差の要因ともなるだけに深刻である。
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