1996 Fiscal Year Annual Research Report
溶液相における光化学ダイナミックスに対する強磁場効果
Project/Area Number |
08218262
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
林 久治 理化学研究所, 分子光化学研究室, 主任研究員 (50087508)
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Keywords | 光化学反応 / ラジカル対 / 過渡吸収 / 強磁場効果 / パルス磁石 / ベンゾフェノンケチルラジカル / フェニルチイルラジカル / Δg機構 |
Research Abstract |
通常の均一非粘性溶液を用い,室温において数種の光化学反応についてナノ秒レーザーフラッシュホトリシス法により過渡吸収強度の時間変化(A(t)曲線)を精密に測定したところ,明瞭な強磁場効果が得られた。例えば、チオフェノール(PhSH)存在下、通常溶媒中でベンゾフェノン(BP)をレーザー光照射(355nm)するとベンゾフェノンの励起三重項状態(^3BP^*,T-T吸収:520nm)が生成し、さらに水素引抜き反応によりベンゾフェノンケチルラジカル(BPH・,吸収:550 nm)とフェニルチイラジカル(PhS・,吸収:450nm)が生成する。 ^3BP^* + PhSH → ^3[BPH・PhS・] → BPH・ +PhS・(1) そこでベンゾフェノンケチルラジカルの消失過程を550nmで磁場を変化させて測定した。アセトニトリルを溶媒に用いるとA(t)曲線に磁場効果は見られないが、ノナンニトリルに変えるとA(t)曲線に明確な磁場効果が観測された。このことは、磁場効果が溶媒の粘度(η)と相関があることを示唆するので、次に種々の溶媒中での1.7Tの相対散逸ラジカル収量(R(1.7T)=A(3μs,1.7T)/A(3μs,0T))を測定した。ヘキサンやアセトニトリルのように特に粘度の低い溶媒では磁場効果は実験誤差内で観測されなかったが、ηが0.5cP程度より大きい溶媒ではいずれも明確な磁場効果を示し、粘度が大きくなるにしたがってη^<1/2>に比例して磁場効果も大きくなった。さらに相対散逸ラジカル収量の磁場強度依存性(R(B))についても、反応(1)を2-メチル-1-プロパノール(η=3.33cP)溶媒中において0〜10Tの強磁場領域で測定したところ、R(B)は磁場の強度の平方根(B^<1/2>)とよい直線関係を示すことが判明した。以上の溶媒効果と磁場強度依存性との結果より、反応(1)の磁場効果はΔg機構によるものと考えられる。本反応の磁場効果が室温通常溶液中でも観測されるのは、ラジカル対における再結合速度がスピン変換速度と同程度に早いことが原因であることを明らかにした。更に、パルス磁石を用いて最高磁場を従来研究の2倍以上拡張し、0〜29.6Tの超強磁場領域でのナノ秒レーザーフラッシュホトリシス法による過渡吸収測定に世界で初めて成功した。今後はこのような未踏領域にラジカル対の反応ダイナミックス研究を拡張する予定である。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] M.Wakasa: "Magnetic Field Effects on the Hydrogen Abstraction Reactions of Triplet Benzophenone with Thiophenol in Nonviscous Homogeneous・・・・・・" Journal of Physical Chemistry. 100.39. 15640-15643 (1996)
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[Publications] Y.Sakaguchi: "Magnetic Field Effects on the Photochemical Electron-Transfer Reactions of 10-Methylphenothiazine and Dicyanobenzene・・・・・・" Journal of Physical Chemistry. 101 (印刷中). (1997)
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[Publications] K.Nishizawa: "A Laser Flash Photolysis Study of the Effects of Ultrahigh Magnetic Fields up to 29.6 T on Dynamic Behavior of Radical・・・・・・" Chemical Physics Letters. (印刷中). (1997)