Research Abstract |
日本沖の北西太平洋で,浮遊性有孔虫群集から古環境に関する情報を含む少数の有意な因子を得る目的で因子分析を行い,地理的分布が水塊分布の関連する5つの因子が得られた.第一因子は黒潮,第二因子は変遷水,第三因子は親潮,第四因子は黒潮縁辺流,第五因子は沿岸流で,これらの5因子ですべての変数の94%を説明することができる.更に,個々の環境要素の数値を算出するために重回帰分析を行い,黒潮・親潮海域の独自の変換関数を確立した.本研究で得られた変換関数PFJ-125の標準誤差は,冬の表層水温でおよそ1.75℃,夏の表層水温でおよそ1.17℃,高い信頼度の変換関数が確立された.その上で,9本のコアについて,AMS14C年代測定を行い時間軸を設定し,黒潮を中心とした海流を反映した古水温の垂直的変動が算出され、それらの値と因子負荷量から復元した過去25,000年間の黒潮と親潮の変遷を明らかにした.その結果,従来の研究では,最終氷期最寒期には,親潮又その潜流が西南日本沖まで南下していたと考えられていたが,今回の結果は,そのような南下は認められず,換って,黒潮流軸が南下し,遷移水が黒潮流軸と西南日本の間を占めていたことが明らかになった.その後,流軸が大蛇行するようになり,その内側には冷水塊が発達していることが明らかになった.7〜6千年前には流軸が最も岸よりに沿って流れるようになり,その後現在と同様の流路をとるようになったと推定される.また,東シナ海において最終氷期以降の堆積物を含むピストンコアについて,AMS14C年代測定を行った.環境変動を明らかにするために,コア試料の処理及び浮遊性有孔虫化石による検討を行い,最終氷期から温暖化する時期に,黄河からの大量の淡水の影響があるとの新知見を得た.更に,日本海の古海洋環境復元のための基礎研究として,日本海の対馬暖流域における表層堆積物中の浮遊性有孔虫の種構成と地理的分布を明らかにし,表層水塊との関係を検討した.産出頻度が高く,分布範囲が広いかもしくは特徴的な代表種について地理的分布(産出頻度%)を明らかにした.代表種の地理的分布は,その分布傾向から大きく3つのパターンに大別でき,それぞれ,対馬暖流の流軸部,リマン海流の寒冷水及び両者の中間水との対応関係について新知見を得た.なお,日本海から採取されたコアについてAMSC-14年代測定をおこなった.炭酸塩堆積物における陸水性続成作用では,わずか数千年から数万年という期間で,炭素・酸素同位体組成は,堆積時の初生値とは異なった有意な変化として顕れることが明らかになった.したがって最終氷期(約18,000年前)以降のような地質学的にはきわめて短い時間スケールであっても,十分に炭酸塩堆積物に記録された初生炭素・酸素同位体組成を変化させる可能性があり,このことは炭素・酸素同位体組成を用いて堆積時の環境変動解析をする際には,陸水性続成作用の影響を十分に考慮する必要があることを示唆している.
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