Research Abstract |
本年度は,視覚的刺激を構成する諸特徴の統合に関する基礎的な資料を獲得するための実験的研究を実施した.このために,まず,いくつかの特徴から構成される2刺激を,比較的短い時間間隔で継時的に提示し,予め指定した特徴について,2刺激間で同異判断を求める実験を計画した.このような課題では,最も合理的な方略は,第1刺激の認知において,指定された特徴だけを記憶し,第2刺激も指定の特徴だけに着目して,両者を比較照合することである.しかし,刺激は複数の特徴から構成されており,指定の特徴にのみ着目することは困難であるかもしれない.このようなことを検討するために,2刺激間で,指定特徴が一致する場合に,指定外の特徴が一致,または不一致である2通りの条件を設け,同異判断の結果を比較する実験を行った.刺激を構成する特徴としては,色,形,大きさ,の3特徴を採用した.第1刺激を50ms提示し,SOAを500msとして第2刺激を提示した.被験者は,予め同異判断のために着目すべき特徴を指定された.指定特徴の数は,1,2,または3特徴であり,同異判断の正答率とその所要時間とが測定された.「同判断」に関する主要な結果は,(1)私邸外の特徴が不一致の場合,一致の場合よりも,所要時間が長い,(2)指定特徴数が増すとともに所要時間が増加する,(3)色,形に較べ,大きさに基づく判断は所要時間が長い,ことであった.これらの結果から,指定特徴の同異判断には,指定外の特徴の同異も影響を及ぼすことが明らかである.このことは,色,形,大きさの組み合わせからなる刺激の認知表象として,少なくとも特徴間の連合,を考慮に入れる必要のあることを意味する.また,本実験のように,刺激の形が複雑で,かつ2刺激間で形が異なる場合,「大きさ」の同異を検出するためには、形に依存する計算過程が必要であることが示唆された.形と大きさの関係については,更に詳細に検討を加えるための実験を準備中である.
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