Research Abstract |
本研究の目的は,バブル崩壊後の日本企業における会計方法選択の要因と動機およびその実行に関するメカニズムを明らかにし,会計政策の実態を究明することである。昨年度は,仮説の正しさを追証するために内外の文献のサーベイを行うとともに,問題点を提示した。本年度は,その実証分析のために有価証券の評価基準や退職給与引当金の設定基準などのデータベースを構築する作業を行い,それを基に企業の会計的裁量行動の実態を分析することを試みた。 ここでは,有価証券報告書総覧を利用して,バブル崩壊時点の1990年11月から1991年10月までのデータと,それから5年後の1994年11月から1995年10月までのデータの2時点について集計を行った。抽出したデータは,有価証券と退職給与引当金についてである。有価証券の評価基準については,その種類ごとに原価法と低価法に分け,さらに原価法は「すべて原価法」と「強制低価法」とに分け,そして低価法は「取引所の相場あり」,「市場性あり」,「上場」,「短期保有」とに分けた。さらに,有価証券の評価方法は,それぞれ移動平均法,総平均法,個別法に分けて集計した。調査対象は東証一部上場の鉱・製造業12業種668社である。それによれば,有価証券の評価基準は原価法291社,低価法377社となった。一方,評価方法は移動平均法が596社,総平均法71社,個別法1社であった。いまのところ,データ不足でこれに関して十分な実証分析ができなかった。 最近の会計研究は,報告利益を発生項目額の裁量的調整によって操作するという点から,経論者の裁量行動が説明される傾向にある。今後,我々も構築したデータベースを基に,この視点から経営者の会計手続に関する予測を実証的に検討していきたいと考えている。
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