Research Abstract |
これまでの研究によって,約150万年前以降の日本海では,氷期には外洋から孤立し深海底は還元的状態になり,一方,間氷期には対馬海流が流入し,海底は酸化状態に変化したことが分かった.これらの研究は,主に深海底コアの情報に基づく.これに対して,浅海堆積物や化石記録が入手困難なためで,特に最終氷期以降の記録はほとんど得られていないので,浅海の環境変動や生物の変遷についてはほとんど分かっていない.だが,日本海の環境変動のパターンが150万年前から変化していないのだから,150万年前より新しい浅海成層ならば,氷期から間氷期への温暖化に伴う浅海の底生生物群の変化を解明できる.そこで,本年度は約140万年前の地層,大桑層において寒水系貝化石から暖水系貝化石への移行層準の浮遊性有孔虫の層位分布を検討した.その結果,対馬海流の流入前後の環境は4つの異なった時代を経たことが分かった. 第1の時代は,対馬海流流入直前で,海底には寒水系貝類が生息していた.第2の時代は,対馬海流流入直後で,その厚さは恐らく50mよりも薄く(現在の厚さの1/3),海底まで影響を及ばず,寒水系貝類が生存しえた.第3の時代は寒水系貝類の生存を許さないまでに温暖化したが,暖水系貝類にとっても生存に不適な時代だった.第4の時代は十分に温暖化し,暖水系貝類が存在できるようになった.以上のことをまとめると,次のようになる.対馬海流の流入に伴う温暖化により寒水系貝類は死滅したが,彼らのニッチはすぐには置換されず,しばらく貝類に関しては貧困な環境となった.これは,冬の低水温が暖水系貝類の定着を阻害したためだろう.その後,対馬海流がパワーアップし,暖水系貝類の住める状態に変化した.本年度の研究によって,氷期から間氷期への温暖化に伴う浅海の底生生物群の変化の実態がかなりクリア-になった.
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