Research Abstract |
本研究では広島県東部地区の自家汚染の進行した魚類養殖場とその周辺の非養殖区を対象として,それぞれの底質指標と底泥内微生物群集構造を実測し,底質の悪化と微生物群集構造の変化の関係を考察した.観測定点は養殖場区に8点(St. 1, 2, 3, 6, 7, 9, 10, 11),対照区に3点(St. 4, 5, 8),計11点設け,観測は秋,冬,春,夏の計4回行った.測定項目は泥温,pH,酸化還元電位,酸揮発性硫化物量,強熱減量,リン脂質量および微生物バイオマーカー脂質である. 底質環境指標の内,酸化還元電位は対照区以外のすべてで通年還元状態を示し,特にSt. 7, 10で最も還元的な値であった.季節的には冬に回復傾向がみられた.硫化物量も対照区ではほとんど検出されなかったのに対して,養殖場内では高い値を示し,古くからの養殖場であるSt.7で最も高かった.強熱減量はSt. 3, 4, 5, 8でやや低めの値を示し,その他は8〜10%であり,最も高かったのはSt.7であった.以上より,全体的に魚類養殖場内で酸化還元電位が低く,硫化物量,強熱減量が高く,自家汚染の進行を示した.また,微生物バイオマスを示すリン脂質量は対照区では低い値であったが,養殖場区では高く,特にSt. 1, 6, 7, 9, 10, 11で高い値が得られた.また,冬にバイオマスの減少した測点が多いのは泥温低下によるバクテリアの活性低下が原因であろう.しかし,春になると再び高くなるのは先とは逆に水温が上昇し,成層が発達して底層への酸素の供給が減少し,有機物供給量の増加とともに嫌気的な環境を好む硫酸還元菌などのバクテリアが増加したためであろう.一般に酸化還元電位が高く,硫化物量,強熱減量が低い対照区ではリン脂質量は低いのに対し,酸化還元電位が低く,硫化物量,強熱減量が高い養殖区ではリン脂質量は高い傾向がみられ,自家汚染の進行に応答して微生物も変化していることが明らかとなった.分析中の微生物バイオマーカー脂質より微生物バイオマスに加えて微生物群集構造が明らかになる予定である.
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